関川夏央+谷口ジロー『『坊っちゃん』の時代 凛冽たり近代なお生彩あり明治人』

激動の時代であった明治時代を生き抜いたを明治人(あるいは明治時代そのもの)を、夏目漱石を軸に描き出した漫画。関川夏央のあとがき「わたしたちはいかにして『坊ちゃんの時代』を制作することになったか」を読む限り、非常に野心的な試みであったことがうかがい知れるし、本書は実際、日本思想史の洗い直しとも、日本文学史の洗い直しとも取れる。
実際、2006年(平成18年)現在から見ても、夏目漱石は日本人や日本社会の象徴的な存在であるように思う。俺ごときが日本論を一説ぶる気はさらさらないが、簡単に書くと、夏目漱石は西欧文学の研究(つまり欧米文化・欧米技術の日本化)によって生計を立てるも、西洋のことが好きになれない。それどころか、留学によって神経症を悪化させ、ますます西洋が嫌いになる。ある種「ねじくれた形で」和魂洋才を体現しているのである。愛憎入り混じる静養への複雑な感情――まさに日本そのものではないか。
けれど日本思想史や文学史・歴史といった予備知識なしに読んでも単純に面白い。谷口ジローの漫画はやっぱり抜群に巧い。修練の人だね。