『巌窟王』10巻

巌窟王 第10巻 [DVD]

巌窟王 第10巻 [DVD]

アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』を原作とする深夜アニメ。元々は『モンテ・クリスト伯』をモチーフとするSF小説『虎よ、虎よ』をアニメ化しようとしていたそうだが、著作権の関係で実現せず、『モンテ・クリスト伯』をアニメ化したらしい。そのためか、細部まで原作に忠実にアニメ化しているわけではない。19世紀のパリではなく幻想的な未来のパリが舞台である点、復讐する側ではなく復讐される側の子どもたちの視点から話を構成している点など、原作を活かしつつも(かなり)大胆な構成の組み換えが行われている。原作とはまた異なった彩りが本作にはあり、原作を読んだ者も読んでいない者も楽しめると思われる。
DVD第10巻には以下のエピソードを収録している。

第十九幕「たとえ、僕が僕でなくなったとしても」
第二十幕「さよなら、ユージェニー」

復讐鬼としての素顔をアルベールに見せつけたモンテ・クリスト伯爵は、今まで焦らしに焦らした分、これでもかとばかりにハイピッチで復讐を実行していく。自業自得という気もするが、昔々に伯爵をイジメた皆さん、今までとは打って変わって、まるで単なる雑魚キャラのように餌食になる。ある種の痛快さがあるのは確かだが、やはり物悲しい。
さて、このあたりで本作『巌窟王』の魅力を改めて整理したい。まずは、何と言っても設定やストーリーの巧みさ。文学史上屈指の名作『モンテ・クリスト伯』を原作にしているが、単にアニメ化しているわけではない。幻想の未来都市・パリを舞台としている点、原作ではローマだった謝肉祭が月面都市ルナとなっている点、復讐する側ではなく復讐される側の子どもたちの視点から話を構成することで、より復讐鬼の凄まじさを表現し得ている点など、実に巧みな構成である。
次に、そのグラフィックの流麗さ。今まであえて書かなかったが、アニメーション史上屈指の美しさである。服や都市にテクスチャを使い、実に斬新で、きらびやかな映像である。最初は違和感を覚える人もいるかもしれないが、その独特の違和感も含めて、幻想的SF世界に迷い込んだ感じを強く打ち出すことに成功している。建物も実に不思議な立体感がある。3Gを駆使しているのだろうか、とにかく絢爛豪華なワールドである。
さらに、女性キャラクターが片っ端から良い。ヒロインのユージェニーの(貴族らしからぬ)真っ直ぐで等身大の人間性は、本作にしては地味な風貌ながら、実に魅力的である。また伯爵に仕える少女・エデも良い。声とファッションは、本作の中でも随一の美しさ。メルセデス、ヴァランティーヌ、ビクトリアは個人的に好きじゃないので無視するとして、どちらかと言えば脇役のヴァランティーヌの後妻・エロイーズは、名前の通り(?)抜群にエロい。また盗賊団の一味のベッポも、どうにもエロい。美少女(?)としての誘惑性は個人的にはアニメーション史上屈指。さらにさらに、本作ではかなりの脇役だが、俺はG公爵夫人のセクシーさが大好きである! 巌窟王ファンとしては、G公爵夫人のセクシーさを一瞬たりとも見逃してはいけない!
……と、分析的なことを全く行わずに思いのたけを書き散らしたが、まあ面白いものに分析など不要だと俺は思うわけで、自制心を持ってかなり控えめに書いてもこのくらい魅力を書き付けることのできる本作は、やはり傑作中の傑作だとしか言いようがない。美しくて哀しい復讐の物語も佳境に入ってきた。だんだん近づいてきたラストが楽しみで楽しみで仕方ない。