『イノセンス』

イノセンス スタンダード版 [DVD]

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攻殻機動隊シリーズの劇場第2作だが、つまらんなあ。『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』はめちゃくちゃ面白かったけれど、本作はあまり面白くない。確かに映像は美しすぎるし、奇妙で非現実的な音楽もその世界観に合っている。特に祭礼シーンなどは身震いするほどである。しかし肝心の話がつまらん。どのキャラクターのセリフも大半が比喩や引用で、わかるようなわからないような問答が延々と続く。
他の人間の持って回った言い回しにもイライラさせられるが、特に本作の主人公であるバトーのキャラクター造形にはガッカリである。バトーは、過酷な軍隊経験を経て、現在は超法規的かつ攻勢の組織・公安9課で銃撃戦や諜報戦に従事する、荒事のプロフェッショナルだ。いくら少佐(草薙素子)が失踪したからといって、屈指のプラグマティストから「比喩や引用で会話をする」などという腐れ落ちた性根が生まれるはずがない。あまりにアンバランスで、ちっともそぐわない。
要は、衒学趣味なのである。衒学的とは、俺なりに定義すれば「内容の有無や意味の重要性に関わらず、さも重要だと言わんばかりに意味ありげな知識や学問をひけらかす、知ったかぶりと紙一重の状態」のことである。大学生の頃などは衒学的な作品に傾倒した時期も確かにあったが、さすがに俺自身もう衒学趣味は卒業した。失敗したエンターテイメントはその多くが衒学趣味の隘路に陥っているが、本作も例外ではないと俺は思う。
結局、押井守の小難しい言い回しによって、攻殻機動隊シリーズが持っていた疾走感と近未来へのワクワク感とが消え去ってしまっているのである。現代社会への批評精神すら、聖書や孔子の引用によって薄まってしまった。あえて言えば、少佐が登場してからはわりと面白かったかな。しかし、いつものあの義体ではない。