村上春樹+柴田元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

J.D.Salinger『The Catcher in the Rye』を新たに訳した村上春樹と、村上春樹に翻訳上のアドバイスを行った柴田元幸が、『The Catcher in the Rye』やサリンジャーについて語り尽くした対談集。村上春樹はけっこう気合を入れて解説を書いたそうだが、契約上、新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の巻末には解説やあとがきの類を一切つけられないそうだ。文化的背景の異なる翻訳作品には解説が必要だと村上春樹は考えており(俺も同感である)、『キャッチャー』の巻末に収録できなかった訳者解説も本書に載せている。
サリンジャーが軍隊経験により深い傷を負ったことや、そのトラウマが本書に反映されていること、ホールデンが実は(精神病またはそれに近い神経症で)サナトリウムにいるらしいことなど、俺が一読しただけではわからなかった点や本書の外側をめぐる状況もかなり詳しく出てきており、理解が深まる。読んでよかったと思える本である。名訳の誉れ高い野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』と村上春樹訳『キャッチャー』の違いも指摘されており、これもなかなか興味深い。