細野不二彦『ギャラリーフェイク』1巻

ギャラリーフェイク (1) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (1) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 贋作画廊(ギャラリーフェイク
ART.2 傷ついた「ひまわり」(前編)
     傷ついた「ひまわり」(後編)
ART.3 北斎の市
ART.4 孤高の青
ART.5 触覚の絆
ART.6 13人目のクーリエ
ART.7 落とすのは誰だ!?
ART.8 消えた黄金仏
ART.9 影武者の宴

全32巻を通して常に安定して面白い作品なのだが、第1巻のプロットの完成度の高さは圧倒的なほどである。「贋作画廊(ギャラリーフェイク)」では、日本の美術業界の現実と主人公・藤田玲司のビジネスや人となりがわかるエピソードが提示される。前後編となる「傷ついた『ひまわり』」は、ヒロインであるサラ・ハリファの登場エピソード。「北斎の市」ではアートの持つコマーシャリズムの側面を抉り出す。「孤高の青」はフジタの父親をめぐるエピソード。「13人目のクーリエ」では美を守るために法律や常識とも対決するフジタの強い意志が描かれ、「落とすのは誰だ!?」ではフジタがメトロポリタンを追われ贋作画廊に身をやつす原因となった事件が明らかにされ、その過去に決着をつける。この10回弱のプロットは、まさに完璧である。
なお、高田美術館の三田村館長や国際的な美術窃盗団のボスであるカルロスといった主要キャラが第1巻で初登場する。