細野不二彦『ギャラリーフェイク』8巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 タブーの乾山(前編)
     タブーの乾山(後編)
ART.2 ニンベン師再び!
ART.3 真珠と少年
ART.4 森の香り
ART.5 神々の宝石(前編)
     神々の宝石(後編)
ART.6 書道・衆道
ART.7 仮想美術館

「神々の宝石」では、女宝石泥棒の翡翠(フェイツイ)が活躍する。フジタは意外に色仕掛けに弱く、フェイツイには出し抜かれることが多いのだが、今回はフェイツイにどうしても頼らざるを得ない羽目に陥ってしまう――というもの。インドのカースト制度や不可触民(ハリジャン)と宗教の問題も取り上げており、非常に読み応えのあるストーリーである。1995年〜1996年に書かれたものと推測できる「仮想美術館」も、利用者が自由に仮想の美術館内を歩き情報を取り出したり美術品を鑑賞したりするという構想は、書かれた当時を鑑みるとなかなか先鋭的であろう。