細野不二彦『ギャラリーフェイク』15巻

ギャラリーフェイク (15) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (15) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 人魚姫の海
ART.2 戦場に消ゆ
ART.3 王様と乞食
ART.4 仮面を掘りおこす者
ART.5 三つの鞄
ART.6 半分と半分
ART.7 紙は応えてくれる。
ART.8 皇帝と貧者のための卵
ART.9 加州昭和村

特に気に入っているのは「王様と乞食」である。金唐紙を買い取るため、あるホームレスの男に付き合う羽目になったフジタ。しかし一等地の駅前に勝手に住み着き、テレビや本・漫画どころかカメラに時計・ウィスキーまである「豊か」な生活。フジタはホームレスに付き合うことに嫌気が差して「あんたら王侯貴族だよ。日本という金持ち国にぶら下がっている寄生虫のごとき貴族! 金唐紙はもうけっこう。これいじょうあんたらに付き合ってると“美”を観る眼が腐ってきそうだ」と吐き捨てて金唐紙の購入を諦める。しかしホームレスは言うのである。王様のごとき乞食にもひとつ、自由にならないものがあるのだ――と。なるほどと納得させられる。
「仮面を掘りおこす者」も面白い。民族アイデンティティとクリエイティビティの関係をモチーフにしている。