細野不二彦『ギャラリーフェイク』18巻

ギャラリーフェイク (18) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (18) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 館長三昧
ART.2 奈翁(ナポレオン)のオー・デ・コロン
ART.3 アスパラガスの皿
ART.4 宝探し同好会(トレジャーハンタークラブ)
ART.5 似た者どうし
ART.6 素顔のマリー
ART.7 サバイバル・イン・サハラ(前編)
     サバイバル・イン・サハラ(後編)

ジャン・ポール・香本の初登場するエピソード「奈翁(ナポレオン)のオー・デ・コロン」が特にお気に入り。フジタは翡翠(フェイツイ)から、香水好きで知られたナポレオンのオーデコロンの復元に力を貸してほしいと頼まれる。といってもフジタの用意するのは香水びんで、中身の香水はジャン・ポール・香本に頼むという。香本は香道の家元にして、“鼻(ネ)”である。通常の調香師(パフューマー)が嗅ぎ分ける香りは300種類程度であるが、世界には、2000種類以上の香りを化学分析にも勝る精度で嗅ぎ分け、真の創造性も持ち合わせる、超一流の調香師がわずかながら存在する。彼らは世界でせいぜい20人ほどしかおらず、香水業界では尊敬の念を込めて鼻(ネ)と呼ぶのである。
香本は一流の鼻(ネ)だが、変態的な性格や奇行など、天才ゆえのエキセントリックな面を持っており、ナポレオンの香水を思いもよらない方法で完成させるのである。さしものフジタも「頭の神経の2、30本はキレてるぜ……」と毒気を抜かれるほどの変態性。良いキャラやなあ。フジタと香本は互いに反目しているが、香道の家元だけあって美術品や工芸品とも馴染み深く、今後も何度も関わり合う。
またスコットランドヤードの盗難美術品専門の捜査官ロジャー・ワーナーの初登場するエピソード「似た者どうし」も面白い。ロジャー・ワーナーは変装の名手で裏社会の事情にも明るく、裏ルートに流れた美術品の回収を行う一方、アールグレイ以外の紅茶は口にしないといったこだわり派の一面を見せるなど、地味ながらお気に入りのキャラである。