細野不二彦『ギャラリーフェイク』20巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 同行三人
ART.2 イヤー オブ ザ ドラゴン
ART.3 注文の多い家庭教師
ART.4 パサージュをぬけて
ART.5 聖女の鎧
ART.6 オークションの罠
ART.7 KYOTO POP
ART.8 from the North Hotel

美大生時代の女友達の息子に絵の手ほどきをする「注文の多い家庭教師」が個人的にはお気に入り。生活に追われ美術から離れてしまった母に喜んでもらおうと、少年はフジタに絵を教えてほしいと頼む。確かに少年はスジが良く、また美大に進むとなれば母親は喜ぶだろうと思われた。しかし本当に母が嬉しいのは何だろうか、とフジタは少年に問いかけるのである。
「オークションの罠」も面白い。フジタがメトロポリタンを追われたのはまさにオークションであり、「因縁再び」とまでは行かないが、なかなかの面白さ。