鎌田慧『自動車絶望工場』

自動車絶望工場 (講談社文庫)

自動車絶望工場 (講談社文庫)

佐藤郁哉『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』で紹介されていた、著者がトヨタ工場で6ヶ月間ほど季節工として働いた体験を書き記したルポルタージュ。6ヶ月間という期間を長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれかもしれない。しかし本書を読む限り、この仕事を6ヶ月間も続けるのは相当過酷である。実際、6ヶ月間を全うした季節工はほとんどいないそうだ。「たられば」の話には意味がないことを承知で書けば、おそらく「本書を書く」という気持ちがなければ、最後までは働けなかったのではないか。
本書によると、トヨタでの仕事はダントツに厳しくて、日産を初めとした他工場よりもトヨタの方がしんどいようだ。ただまあ、日産でもホンダでもマツダでもスズキでもダイハツでも、あるいは自動車以外の工場でも、この労働の本質は大して変わらないのだと思う。やはり単純作業はしんどくて、多くの場合、時間の切り売り以上のものが身につかないから、やればやるほど他の仕事に移れなくなるという泥沼現象に陥るのである。
著者が季節工として働いたのは1972年9月からの6ヶ月間であるが、「文庫版あとがき」によると、それから10年経っても、本書に書かれている実態はほとんど変わっていないそうだ。著者が働いてから35年が経過したが、さて、2007年現在、その実態はどれほど変わっただろうか。トヨタ式生産方式自体も進化を遂げているのだろうが、効率的になればなるほど、働く側はしんどい。2007年現在の実態としてどうなのかは、気になるところである。著者がもう1回季節工として働く……のは無理だろうな。
ところで俺は印刷工場で数週間ほどアルバイトしたことがある。19歳やそこらで1日1万円近くも稼げるのは嬉しかったが、今もう1回やれるかと言われると、絶対やれない。あまりにしんどくて、体が疲れるのもさることながら、もう何も他のことをやる気力が起きないのである。もちろん本なんか1ページも読めない。友達の父親に紹介してもらった仕事でなかったら、あるいは友達と一緒に働いていなかったら、逃げ出していたかもしれない。著者も、同郷から一緒に来た知人をずいぶん気にしていたが、そういった人と人とのつながりが、苦しいときに最後の支えとなるのだと俺は強く思う。