細野不二彦『ギャラリーフェイク』25巻

ギャラリーフェイク (25) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (25) (ビッグコミックス)

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 カメオ=貴婦人(レディ)
ART.2 "残暑絵金見舞"
ART.3 胡桃(くるみ)の兵隊
ART.4 迷わざる子羊
ART.5 浮世不景気風呂
ART.6 ジョコンダの姉妹(前編)
     ジョコンダの姉妹(中編)
     ジョコンダの姉妹(後編)
ART.7 ジョコンダの劇場

「ジョコンダの姉妹」は、フジタがライフワークとしている「モナ・リザの別バージョン」を探すエピソード。それに美術崇拝者であったナチスドイツ総帥アドルフ・ヒトラーが構想した「総統美術館」というモチーフが交わり合う。細々と続いていた「モナ・リザ」エピソードだが、ここに来てG・Dという新たなキャラクターが登場。今後もちょくちょく出て来るんだよなあ。
まあフジタは結局アレだったわけだが(最終巻ではないので察してくれ)、せっかくブラジルまで来てモナ・リザに逃げられたフジタは緊張の糸が切れ、すぐには帰国せず昼行灯な日々を過ごした際のエピソードが「ジョコンダの劇場」である。フジタはブラジルでたまたま、自分の娘と言い張っていた少女リザ(エリザベータ)と出会う。リザは今イタリアの音楽院の初等科に進学していたのだが、ブラジルの公演に来ていたのである。普段とは趣の異なるエピソードだが、自分がいなくとも立派に成長しているリザを見て、フジタはまた日本でアートとビジネスに明け暮れることを決意するのである。