藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 4 [未来ドロボウ]』

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 (4) (SF短編PERFECT版 4)

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 (4) (SF短編PERFECT版 4)

藤子・F・不二雄は、『ドラえもん』や『パーマン』『21エモン』『ウメ星デンカ』『モジャ公』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』といった漫画で知られている漫画家である。藤子・F・不二雄の言う「SF」は「サイエンス・フィクション」の略ではなく、「すこし・不思議」の略である。これらのすこし・不思議な「SF」は、まさにF氏にしか書けない貴重な子供向け作品群だが、一方で大人向けのSF短編集も意外なほど多く発表している。本書は、発表された年代別に藤子・F・不二雄の大人向けSF短編112話を全8巻に完全収録したパーフェクト版である。
シリーズ第4巻には以下の作品が収められている。

カンビュセスの籤(くじ)
ユメカゲロウ
考える足
オヤジ・ロック
宇宙人レポート サンプルAとB
ぼくは神様
スタジオ・ボロ物語
未来ドロボウ
宇宙人
あのバカは荒野をめざす
老年期の終り

第4巻も傑作ぞろいだが、まずはF氏の中でも特に好きな作品「老年期の終わり」を挙げないわけにはいかない。ある日、ラグランク星に宇宙船が不時着する。中では人間が冬眠していた。家族も友人も捨てて宇宙に旅立った青年は、6000年も眠り続け、地球から5千光年も離れた銀河系の中心近くにあるラグランクまでたどり着いたのである。しかし、まさに少年が到着したその日は、その少年にとってはあまりに皮肉で残酷な日だった――というプロローグ。タイトルはアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』をもじったものだと思われるが、種そのものの衰退(老年期)という概念を持ち込み、若者の蛮勇とも思える真っ直ぐな可能性をSFに仕立て上げている。これを読むと昔から勇気が出るんだなあ。まさに傑作。
「カンビュセスの籤」と表題作「未来ドロボウ」も特に好きな作品のひとつ。「カンビュセスの籤」は、どうにもならない運命というものの空恐ろしさが「くじ」という単純な仕掛けで表現されている壮大なSF作品。一方、表題作「未来ドロボウ」は、ある年老いた大富豪が、若いけれども何者でもない1人の青年に、人生の交換を持ちかけてみる話。青年1人の今後の輝かしい可能性はどれほどの金銭的価値を持つか――という点からプロットが組み上げられており、オチが見えないこともないが、見えてもなお勇気の出るF氏の正統的なSFであろう。
なお巻末には小松左京(作家)によるエッセイ「インファント・エロティシズムに惹かれて…」が収録されている。