藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 7 [タイムカメラ]』

藤子・F・不二雄は、『ドラえもん』や『パーマン』『21エモン』『ウメ星デンカ』『モジャ公』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』といった漫画で知られている漫画家である。藤子・F・不二雄の言う「SF」は「サイエンス・フィクション」の略ではなく、「すこし・不思議」の略である。これらのすこし・不思議な「SF」は、まさにF氏にしか書けない貴重な子供向け作品群だが、一方で大人向けのSF短編集も意外なほど多く発表している。本書は、発表された年代別に藤子・F・不二雄の大人向けSF短編112話を全8巻に完全収録したパーフェクト版である。
シリーズ第7巻には以下の作品が収められている。

かわい子くん
テレパ椎
ニューイヤー星調査行
旅人還る
白亜紀二泊三日
タイムカメラ
福来たる
ミニチュア製造カメラ
値踏みカメラ
同録スチール
求む!求める人
タイムマシンを作ろう
夢カメラ
ある日・・・
倍速
コラージュカメラ

本書では表題作「タイムカメラ」を初めとしたカメラ関係のSF短編が多くあり、これがまたとんでもなく面白い。主人公は、恋人と課長が密会しているのを知り落ち込んでいたところ、奇妙な男と出会う。その男はどうやら団体旅行で遠くの星から惑星間旅行にやってきたが、帰り損ねた模様。彼は地球で使える通貨を持っておらず、腹を空かせて生きるか死ぬかの瀬戸際にあり、主人公は手持ちのお金とそのカメラを交換してあげることにする。そのカメラはポラロイドなのだが、何と現在ではなく同じ場所の「過去」を写すカメラだった――というプロローグ。アイデアそのものは「ドラえもん」に馴染んだ世代にはどうってことないものだが、大人向けのスパイスを効かせることで、小道具ひとつでグッと物語の深みが増している。
「タイムカメラ」で登場した地球に取り残された宇宙人は、カメラを商材にしているらしく、他の短編でも不思議なカメラを取り扱っている。例えば「ミニチュア製造カメラ」に出てくるカメラは、ファインダーの中央に来た構造物だけを写し取って、精巧なミニチュアを作ることができる(生き物や自然物は無理)。また「値踏みカメラ」に出てくるカメラは、出てきた写真についた4つのボタンを押すことで、原価や対象物が生み出す価値といった様々な値段を表示することができる。また「同録スチール」に出てくるカメラは、写真に同時録音されている音を10分間だけ再生することができる。「夢カメラ」は……もはや言うまでもないだろう。「コラージュカメラ」は、子どもでも簡単に、コンピュータ解析しても分からない精巧な合成写真を作ることができるカメラ。どれも一筋縄では行かないユーモラスなお話に仕立て上げられている。
なお巻末には藤本匡美(藤子・F・不二雄氏長女)によるエッセイ「父の持論」が収録されている。