しりあがり寿『方舟』

方舟

方舟

降り始めた雨が、やまなくなる。嵐のような雨ではなく、穏やかな雨がしとしとと降り続け、でも決して雨がやむことはない。世界は水没し、徐々に、静かに滅びていく。その中で、ひとりひとりの終わりがやはり静かに描かれるのである。
あとがきの言葉も、やはり静かで、しかし心を揺さぶる。

 「滅び」は未来を思い描くことのできぬ者の上にやってくる。
 明日もあさっても次の日も、自分がどうしたいんだか。世の中の何がどうなればよろしいんだか。
 人類が空を飛ぶことを夢見ていた時代は終わった。飢えることのない社会も夢ではない。平和を夢見る時代すらここでは終わっている。
 今、「輝ける未来」が失われたのは、他の何のせいでもなく、あなたの、私の、人類そのものの脳みその、一つ一つの脳細胞の、想像力の、力不足のせいなのだ。ただそれだけなのだ。

静かで透き通った終わり、その中から、それでもなお未来を思い描くことができるかどうかは、ある意味で本当に「未来」の失われつつある21世紀に残された課題である。