鈴木貴博『がつん!力 会社を救う5つの超原則』

がつん!力 会社を救う5つの超原則 (講談社BIZ)

がつん!力 会社を救う5つの超原則 (講談社BIZ)

著者の鈴木貴博は、俺をウィルコムフリークにした極私的名著『逆転戦略 ウィルコム 「弱み」を「強み」に変える意志の経営』の著者であると共に、百年コンサルティングという戦略コンサルティングファームを経営し、さらに最近はビジネス系のコラムやブログを通して示唆に富んだ視点を惜しげもなく提供してくれている人物である。その鈴木貴博による新刊(そして『アマゾンのロングテールは、二度笑う』の続編)となれば、否応なく期待も高まるというものである。果たして、本書は期待に違わぬ名著であった。
たくさんの研究開発費と広告宣伝費をかければ、新商品が売れた時代――そうした時代は過ぎ去ってしまったのだと著者は喝破する。競争相手が多すぎ、凄まじい数の商品が余っているため、ほとんどの商品は巨額のコストをかけても情報の中に埋没してしまう。そして企業そのものも過当競争の波に晒され、埋没の危機に瀕している……。そうした「大埋没時代」に従来の「差異化」戦略や「選択と集中」戦略は効果はない。ではどうするか? それが本書のテーマ「がつん!力」である。そしてその「がつん!力」は「話題に火をつける」「ロングテールで埋没を防ぐ」「『規模の効果』でトップに勝つ」「顧客を囲い込む」「組織と商品をクリエイティブにする」の5点に集約される――要約すれば、こんな感じだろうか。
こうしたパラダイム転換がビジネスパーソンや企業にとって「幸せなこと」なのか「不幸せなこと」なのか、俺にはよくわからない。おそらく両方だろう。しかし一昔前や二昔前と今を比べて確実に言えるのは、競争は激化し、また戦い方も多様化し、思わぬところから伏兵が登場したりルールそのものがいつの間にか変わってしまうというリスクも激増している、ということである。つまり現在のサバイバル競争は苛烈さを極めているし、おそらく今後もっと苛烈さを増していくだろう。自分で言うのも妙だが、俺たちって大変なんだね。
最後に、本書のあとがきを引用したい。

 僕は本書で、経営学におけるスケールカーブ、商品販売におけるロングテールカーブという2つの曲線を軸に、経営の世界における埋没現象の謎に真っ向から斬り込んだつもりです。この2つの曲線は、見た目は似ていますが、それぞれ性質も読み方も異なる別々のツールです。しかし、この両者を使えば、今世の中で起きている埋没現象を定量的に理解しやすくなるという利点があります。
 2年前に刊行した拙著『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社BIZ)は経営戦略の初級教科書として著したものですが、本書はその続編であると同時に、経営戦略の中でも特に差異化戦略の最先端にフォーカスした教科書と位置づけています。

なぜ上記を引用したか? 俺は鈴木貴博が好きだと再認識させられる文章だったからである。俺は(たとえ寡作でも)一冊ごとに明確な位置づけのなされた本を書く著者が好きだ。つまり似たような本ばかりを量産する著者は(良いことを書いていても)基本的に嫌いである。そして他の人が解き明かしていないメカニズムを究明してやろう、まだ誰も考えたことのない仮説を提示してやろう――という「something new」にこだわる野心的な著者が好きだ。しかし残念ながら、そうした著者と出会える確率は高くないのである。
鈴木貴博の著書は、今後も丁寧に追いかけていきたいと強く思う。
アマゾンのロングテールは、二度笑う  「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略 (講談社BIZ) 逆転戦略 ウィルコム-「弱み」を「強み」に変える意志の経営
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