黒木亮『貸し込み(下)』

貸し込み 下

貸し込み 下

前の会社で起こっている不祥事の犯人が(自分の全く感知しないところで)いつの間にか自分だということになっていた――という、よくありそうで、実は非常に怖いスキームに巻き込まれてしまった主人公の物語。下巻。
「脳が損傷して十分に判断できない人に対して、認印を勝手に作るといった犯罪行為を織り交ぜて無理やり多額の金を貸し、しかも貸し手側も借り手側も関係者がドサクサに紛れて大金を抜いている」というとんでもない事件なのだが、邦銀は「私たちは知らない、主人公に聞いてくれ、でも主人公はどこにいるかわからない」という主張を繰り返していた。もちろん主人公にしてみれば、そんな悪さはしていないばかりか、そもそも邦銀時代にこの顧客に会ったこともないわけで、「そんなことを言われても困る」と銀行に牙を向く――上巻の繰り返しになるが、このアウトラインで大枠は外していないだろう。
自分の無罪を証明すると共に、悪どいことをやってきた元勤務先を告発し、被害に会った人たちを裁判に勝たせることが本書のスキームなので、本書の舞台は法廷やマスコミを使った告発ということになる。言った/言わないの日本的な曖昧な事実関係や法廷戦略が絡み合い、かなり面白い。
さらに面白いのは、主人公が加担する被害者側(借り手側)にも、かなりの落ち度がある点だろうか。前述のように、借り手側の元秘書は金を抜いているし、そもそも借り手の資産管理が実に杜撰で、全くと言って良いほど秘書や銀行側に任せているのである。放漫経営というレベルではない。しかし、だからと言って銀行の所業が許されるわけもなく、主人公は実に微妙な状況に身を置きながら銀行と戦い、被害者を助けようとするのである。