古川日出男『アラビアの夜の種族1』

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

古川日出男による傑作長編。3分冊の1冊目。
本書の構成をごく簡単に書けば、ナポレオンによる侵略前夜のエジプトにおける、フランス軍に対抗するための秘策『災厄の書』にまつわる物語――と言えるだろうか。このエジプトを舞台とした物語と、いわば劇中劇に当たる『災厄の書』で綴られる物語(妖術師アーダムと蛇神をめぐる物語)が、入れ子構造になっている。
しかし本書は、劇中劇の形で『災厄の書』という物語が語られるだけのシンプルな入れ子構造ではなく、この本(古川日出男『アラビアの夜の種族』)自体が、作者不詳の『アラビアン・ナイトブリード』の英訳版を底本に、古川日出男が日本語訳を行ったという設定になっている。そして、この『アラビアン・ナイトブリード』は明らかに千夜一夜物語(アラビアンナイト)をイメージさせるものである。そのあたりのテクニカルな構成はかなり面白い。
もちろん本書の面白さは構成だけにあるわけではない。エジプトを舞台とした物語だけでなく、この『災厄の書』の内容が実に読ませる。そしてさらに(詳しくは書かないが)本書ではルビや注釈など「古川日出男が翻訳しているのだ」という雰囲気を盛り上げる数々の趣向が凝らされているのだが、これらが本書の雰囲気に合っていて実に似つかわしい。大変に面白くワクワクする本である。
アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)  アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)  アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)