筒井康隆『エディプスの恋人』

エディプスの恋人 (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

筒井康隆による「七瀬三部作」の第三作。つまり完結編。
第二作で、超能力者に敵意を持つ組織と絶死の戦いを繰り広げて来た火田七瀬は、第三作では名門私立高校の事務職員として働いている。もちろん精神感応能力者(テレパス)であることは変わらないのだが、第二部で出て来た仲間たちや「組織」は出て来ない。第三部の舞台が果たして第二部の後日譚なのか、第一作と第三作の間なのか、はたまたパラレルワールドなのか、読者は考えながら読み進めることを余儀なくされる。その中で、火田七瀬は、ある大きなうねりに巻き込まれていく――といったアウトラインだろうか。
第一作と第二作については、昨日の『七瀬ふたたび』の感想では以下のように書いた。

派手なアクションの少なかった第一作『家族八景』と異なり、本書は一転して、超能力アクション的な要素が前面に出てくる。第一作は、精神感応能力者(テレパス)による個人の内面心理との戦いだったが、第二作は、精神感応能力者(テレパス)による国家組織との戦いであった、と言えるだろう。

第三作で「○○との戦い」の○○に当てはまるものは「神」である。神との戦い――ますます壮大な設定になってきた。つまり火田七瀬は、第一部とも第二部ともさらに違った、大きな「意志」と対峙することになるのである。
第二部を読み終えた時点で、こういう展開になるとは露ほども予想できなかった。類稀なる想像力の賜物だね。これぞSF作家の本領発揮と言うべきだろう。
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