支倉凍砂『狼と香辛料1』

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼の化身である少女(ホロ)と青年行商人(ロレンス)の道中で起こる様々な事件を、軽妙洒脱な掛け合いも散りばめつつ描く「剣も魔法もない」ファンタジー物語であり、中世ヨーロッパ的な世界での経済活動に争いの舞台を置く異色作――とのこと(Wikipediaより)。経済をモチーフとしたライトノベルで、公認会計士なども読んでいると聞き、興味を抱いてアニメーションを見てみたところ、どっぷりとハマり、原作であるライトノベルも読んでみた次第。
特に第1巻は、貨幣価値が重要な題材のひとつとなっているのだが、経済小説的な展開に加えて、いかにも「ライトノベル」的な荒唐無稽な展開もあり、この一冊でかなり楽しめる。
また登場人物たちの掛け合いも面白い。例えばヒロインのホロは狼の化身であり、一見すると少女の姿をしているものの、尻尾と耳が狼のままである。したがって町中ではフードで顔を隠さなければならないのだが、ホロやロレンスと仲良くなった商人が、ホロの素顔に興味を持つのである。見つかったら「狐憑き」として協会に引き渡される危険もあるわけで、絶体絶命のピンチなわけだが、顔を「一目拝ませてくれませんか」と頼まれたときに、以下の一言。

旅はする前が一番楽しく、犬は鳴き声だけが一番怖く、女は後ろ姿が一番美しいものでありんす。気軽にひょいとめくれば人の夢を壊しんす。わっちにゃそんなことできんせん。

気の利いた言い回しだが、Wikipediaによると、こうした「わっち(私)」「ぬし(貴方)」「〜ありんす」「〜かや」といった表現は、江戸時代に遊郭の遊女が使っていた廓詞(くるわことば)というものだそうだ。なるほど、何百年も生きている狼の化身っぽさがよく出ている。