佐藤秀峰『ブラックジャックによろしく』5巻

ブラックジャックによろしく(5) (モーニング KC)

ブラックジャックによろしく(5) (モーニング KC)

研修医(斉藤英二郎)が目にする日本の大学病院や医療現場の現状を描いた傑作漫画。斉藤は研修の配属先で毎回騒動を起こすが、それらの騒動は、ことごとく日本の医療が抱えている深い暗がりに足を踏み入れてしまう――というアウトライン。
第5巻は、前半が小児科。現在(本作の描かれた時点)の診療報酬制度では、小児科はどうやったって赤字である。しかも、ただでさえ子ども相手で大変な現場なのに、夜間は特に混雑する。大人は、自分の辛さは朝まで耐えられるが、愛する我が子を朝まで苦しませることには耐えられないから、夜間診療をやっている病院に殺到するのである。だから小児科は毎日夜半過ぎまで「戦場」になってしまうため、斉藤の指導医(オーベン)の安富先生は救急搬送の依頼を「満床です」と機械的に断っていく。そうした(一見すると)無慈悲な行動に、斉藤はいつもながら憤ってワーワーと騒動を起こすのだが、安富先生は、斉藤とは違う戦い方で今の現実と必死で向き合い、戦い続けていたということを、斉藤は後に知ることになる。斉藤は安富先生ほどの覚悟がなかった自分を恥じ、黙り込むしかなくなるのである。地味ながら好きなエピソードだ。覚悟って、こういうものだろう!
後半からは、長編となるがん医療編。ここから8巻の終わりまでかけて、抗がん剤の功罪が徹底的に掘り下げて語られる。ハードでディープなエピソードが続く。