マイケル・ジャクソン『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』

マイケル・ジャクソン(MJ)のことを知らない日本人はほとんどいないだろうが、俺は彼が死亡するまで特に意識したことはなく、せいぜい「変わり者のゴシップ・スター」という程度の認識であった。洋楽については、ビートルズなどのロックや、ハードロックの新譜はそれなりに聴いてきたけれど、マイケル・ジャクソンのようなポップ・ミュージックはこれまできちんと聴いてこなかった――そういう人は、けっこう多いのではないだろうか?
俺は、マイケル・ジャクソン死亡のニュースを聞いて、youtubeでスリラーの動画を初めて観て……ご多分に漏れず、その圧倒的なパフォーマンスに驚愕した一人である。ギャグやパロディーの中で「スリラーのあのポーズ」や「ムーンウォーク」を見たことはあったが、彼のショートフィルムをきちんと観たのは初めてだったのである。
それからマイケル・ジャクソンのPVはyoutubeでけっこう観てきたが、どれもこれも信じられないほどのクオリティである。皮肉なことに、マイケル・ジャクソンが死んでしまったことによって、俺は「ポップ」の真髄を垣間見たと言って良い。ポップとは、普遍性と時代性の両立であり、数分間の(時として数時間に渡る)日常を忘れる圧倒的にゴージャスな体験であり、観ても聴いても楽しいハッピーな興奮のことだったんだな。
MJの「ポップ」をいざ目の当たりにすると、日本でポップスと呼ばれている音楽が全然「ポップ」ではないことを改めて思い知らされる。日本でポップスと呼ばれている音楽は、そのほとんど全てが「消費され尽くすため」に在るようなものだ。これらは「ポップ」ではなく、単なる「大衆音楽」なのである。良く言えば耳に心地よく、しかし魂を揺さぶり、我を忘れるものではない。それらを嫌ってインディーズロックやヒップホップに傾倒する若者も多いが、結局はクオリティの面で圧倒的に見劣りする。結局のところ、MJの「ポップ」の基準に匹敵する日本の音楽など存在しないと言って良い。日本発の「ポップスター」って誰がいるだろう……? あえて言えば、Perfume(パフューム)だろうか? しかし彼女たちは消費され尽くすことに自覚的な面もあるから……
閑話休題。まあ、あまり小賢しいことを考えるのはよそう。このDVDは、ぶっちゃけると単なるリハーサルの模様を集めたドキュメンタリーなのだが、リハーサルの段階で十分すぎるほどにカッコイイ。最初は「ライブのリハーサルか……」と半信半疑の気持ちもあったが、15分くらい経った頃には完全にDVDの世界に引き込まれていた。MJの一挙手一投足が、もうね……なんだ、彼の存在そのものが事件だったんだな。
改めて言うほどのことではないが、MJはダンスが圧倒的にカッコイイ。歌って踊れるアーティストというのがここまでスゴい威力を持っているとは知らなかった。少なくとも、MJはCDで「聴く」べきではなく、DVDで「観る」べきアーティストだと思う。次はPV集かライブのDVDでも探してみるか。