石川雅之『もやしもん』4巻

もやしもん(4) (イブニングKC)

もやしもん(4) (イブニングKC)

作者曰く「農大で菌とウイルスとすこしばかりの人間が右往左往する物語」とのことだが、要は、肉眼で菌が見えるという特殊能力を持った主人公とその仲間たちによる、ほのぼの農大ライフを描いた漫画。
4巻では、主人公(沢木直保)の特殊能力が消えてしまうというエピソードが描かれる。特殊能力が消えたことを知った先輩の長谷川遥は「見えなきゃアンタ……ただのチビじゃん……」「そのまま見えなくなっちゃったら アンタがここにいる理由って何?」という厳しい言葉を投げかける。それに対して、他の先輩らは「沢木は沢木だ それでよくねェ?」「俺らが持ってない力がもし消えたとして 俺らから見りゃマイナスじゃねェんだ ただのチビなんかじゃねェよ」と主人公をかばうのだが、一方で主人公は、この能力を自分から取ったらどうなるのか、深く考えざるを得なくなる。そして主人公は、長谷川遥の問いに対して、自分なりに(一応の)答えを出す――というアウトラインである。
これこそ、本作の主題を象徴的に示したエピソードではないだろうか。能力がなければ人に存在意義はないのか、能力が消えたら人は「マイナス」なのか――表面的な回答は、もちろん偽善的・偽悪的どちらの回答も簡単にできる。しかし突き詰めると、それは深く潜らざるを得ないテーマである。
思えば、主人公の特殊能力は、樹教授の研究室に出入りしたところで、あまり現実的に役立ってはいないし、積極的に使うようなエピソードにも乏しい。まあ菌の様子を描くことで、漫画をほのぼのとさせる効果はあるかもしれないけれど、漫画的には今のところ「大して役に立っていないギミック」と言えるかもしれない。しかし、この能力を使ったエピソードを安易に乱発させないところこそ、この漫画のテーマであり、この漫画の魅力だと、俺は4巻を読んで感じたのである。