小川一水『天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)』

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

全10巻に及ぶ壮大なSF長編の第一作――の上巻。下巻も含めて1なので、たぶん完結までに13冊くらいまで増大する可能性もあるな。

西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、“海の一統”のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが…

さしあたりAmazonから紹介文を引用したが、舞台は、太陽系の遥か彼方まで人類が進出した遠未来である。メイドロボットが完全に実用化していたり、真空でも生きられる上に電気を放出できる「海の一統」という人種が遺伝子操作により存在したりするなど、ところどころ「遠未来っぽさ」を醸し出している。ただし地球から遠すぎる星に入植しているためか、西暦29世紀と言っても物凄い暮らしをしているわけではない。むしろイメージ的には異世界ファンタジーの中世と近世の境目くらいである。しかも植民星メニー・メニー・シープは圧政下にある。俺の中では「大航海時代」が頭をよぎるような設定である。
で、遠未来っぽさと中世の終わりっぽさを同居させる不思議な魅力を持った舞台で、原因不明の伝染病に直面した医師・カドムと、臨時総督(支配者)がひた隠す自分たちの居住区の外側にある土地を求めて旅立つ準主役・アクリラの2人の物語が、分岐したり合流したりしながら進んでいく。
これは面白い!