小川一水『風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記』

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

父親と対立して辺境に追いやられた主人公(騎士ルドガー)が、泉に棲む精霊(?)のレーズと出会い、レーズの力も(時々)借りながらレーズスフェントという街を作り、成長させていく――という物語。歴史SFと銘打たれているが、どちらかと言えばファンタジーに近く、小川一水の著作の中では異色作かもしれないし、SFファンがどう受け取るかもわからない。が、傑作揃いの小川一水の中でも、かなりイケてる作品ではないだろうか。
とにかく、時間軸のスケールが大きいのが良い。主人公はルドガーだが、本当の主役はレーズスフェントという街そのものである。もちろん主人公が生きている100年足らずの描写がメインだが、巨視的な描写が際立っている。ミクロの視点では、一人の人間(ないし地球外生命体)が必死に自分の人生を生きているが、マクロの視点では一人ひとりの人生の一局面など「さざ波」ですらない。ただ、そうしたエピソードがそのまま歴史の集合体の中に消えてしまうこともあれば、バタフライ効果として世界に大きな影響をおよぼすこともある。
小川一水は最近、こうした「巨視的」な視点での描写を意識することで、「時間」の途方もなさを掴もうとしているように見える。本作は言うまでもなく、『導きの星』でも同じようなミクロとマクロの視点を両立させた物語を書いていた。そして、それらの知見が現在も続いている『天冥の標』という壮大な本格SFに繋がっているのである。
導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)  導きの星〈2〉争いの地平 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)  導きの星〈3〉災いの空 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)  導きの星〈4〉出会いの銀河 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)  天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)  天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)  天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)