小池和男『仕事の経済学』

仕事の経済学

仕事の経済学

労働経済学の考え方を解説した本――と同時に、著者の「長期雇用」礼賛本でもある。長期雇用が仕事能力の熟達に繋がるという考え方は、確かに一定の説得力がある。
ただし、そもそも長期雇用によって作業に熟達し成果向上に繋がるような仕事と、そうでない仕事があるのも事実だ。非常に極端な例を出すなら、学生バイトの代表格である交通量調査はどうだろうか。もちろん交通量調査にも熟達プロセスは存在するかもしれない。しかし熟達することで、どれほどの成果向上が見込めるだろうか。世の中には「工夫の余地」や「熟達のメリット」が少ない仕事も一定数存在するのである。そして、そういう仕事も誰かがやらなければならない。
ただし、働き続けてもやりがいや成長や自己実現に繋がらない仕事に従事していると従業員が感じており、その葛藤を社内で解決する手段がない場合、長期雇用という“正論”は少々酷だと俺は思う。