伊藤要子『加温生活 「ヒートショックプロテイン」があなたを健康にする』

加温生活 「ヒートショックプロテイン」があなたを健康にする

加温生活 「ヒートショックプロテイン」があなたを健康にする

体を温めると健康に良いとよく聞くが、なぜ良いのだろうか。その疑問に対する医学的な見地からの答えのひとつが「ヒートショックプロテインHSP)」である。しかしヒートショックプロテインは、単に血行を良くしたら健康になると言っている論調とは少々異なる。
そもそもヒートショックプロテインとは、異常なタンパク質を修復すると共に、修復し切れない異常なタンパク質を分解してくれる物質である。加えて、分解し切れないほどのやっかいな異常タンパク質は、残ってしまうとガンなどの原因になるため、アポトーシス(細胞の緩やかな死)へと導いている……門外漢があまり偉そうに言うとボロが出るので、このくらいにしておくが、ヒートショックプロテインというのは民間療法でもトンデモ科学でもなく、生物全般が持っているメカニズムのようだ。本書では、ヒートショックプロテインを「ストレスから体を守るタンパク」と一言で説明している。
で、ここで言う「ストレス」の定義は実に広く、種類を選ばない。プレゼンや試験を前にした緊張などの精神的なストレスもあれば、風邪のような体調不良、筋肉痛、メタボな中性脂肪、果ては鬱病やガン細胞のようなものも含まれる(ヒートショックプロテインの増加と抗ガン剤を組み合わせた研究がリアルに行われている)。つまりヒートショックプロテインは、生物の「危機」全般に対して、疲労回復や怪我や病気の早期快癒といった望ましい効果を発揮してくれる物質である。
しかし実際のところは、たとえ危機が訪れなくとも、体を温めることでヒートショックプロテインは劇的に増えることが証明されている。体温を38度(理想は38.5度)まで上げ、しばらく保温することで、ヒートショックプロテインが増えるようだ。
何だ、ヒートショックプロテインは万能薬じゃないかと考えてしまうが、本書を読む限り、まあ実際に万能薬である。効果が実証された、トンデモや民間療法ではない人間以外の生物にも備わった生物学的なメカニズムであり、副作用や有害事象もなく、効果も幅広い。ただし万能薬にも欠点があり、増えたヒートショックプロテインは、2日後をピークに減っていき、4日間ほどで元の数に戻ってしまう。つまり期間限定なのである。
そこで著者は、入浴の文化・風習がある日本であることを活かし、週に2回、ヒートショックプロテインを増大させる「ヒートショックプロテイン入浴法」を推奨している。入浴法と言っても理屈は簡単で、要は体温を38度(理想は38.5度だったかな)に上げ、その温度を下げないように保温すれば良いだけの話である。だから、ぬるま湯に半身浴で1時間つかる……なんてことは必ずしも必要ない。
著者は、ヒートショックプロテイン入浴法の目安として、風呂の温度が40度なら20分、41度なら15分、42度なら10分を挙げているが、最も体温が上がりやすい組み合わせとして「42度の風呂に10分」を推奨している。長風呂がどうも性に合わない俺としても10分程度の方が実践しやすい。で、入浴後は素早く汗や水分を拭き取り、10〜20分間ほど保温する。保温の方法はガウンでも毛布でもサウナスーツでも何でも良い。その間、汗が大量に出るため水分補給をする必要があるが、体温を下げないことが重要なので、冷水ではなく常温またはぬるま湯とする。水分補給が目的なので、必ずしも水である必要はなく、体を温める効果がある生姜紅茶なども(余裕があるなら)良い効果をもたらすそうだ。
あれ、風呂に入るだけと言ってもけっこう面倒だな……と思ったかもしれないが、ヒートショックプロテインは加温後の4日間は増加しているので、週に2回程度で継続的な効果を得られる。他の日は、ぬるま湯に長時間つかってリラックスしても良いし、シャワーで済ませても構わない(あくまでもヒートショックプロテインの観点であって、肩凝りやら衛生面やらは別の話だけどね)。そしてヒートショックプロテインを増加させるには入浴である必要もなく、30分以上の継続的な運動で体温を上げても良いし、サウナで上げても良い。
まとめると、本の構成としてはまだまだ頑張ってほしいところもあるが、そもそもヒートショックプロテインというコンテンツ自体が実に面白く、読んで良かったと思える本である。風呂に入る、体を温める、汗をかくことのメリットは世間でもよく言われるが、結局は「代謝」や「血行」といったわかるようでわからないキーワードで説得されるのが常であった。ヒートショックプロテインの増加という観点は、ぜひ日々の生活に取り入れたい。

余談

前述の通り、風邪のときもヒートショックプロテインは有効である。だから臨床では、実は入浴が良いとする医師も多いようだ。著者も風邪のときは、風邪の引き始め(できれば悪寒を感じる前がベスト、そうでなければ悪寒を感じた段階)で、風邪で体温が上がる前にヒートショックプロテイン入浴法で体温を上げ、そのままゆっくり休むことで風邪の治りが早まると述べている。