インキュベ日記

書評3200冊・漫画評6000冊・DVD評600枚の「質より量」な記録サイト(稀に質も重視)

『優しい時間』

優しい時間 DVD-BOX

優しい時間 DVD-BOX

  • 発売日: 2005/07/06
  • メディア: DVD
倉本聰が15年ぶりに手がけた連続ドラマで、『北の国から』と同じく富良野が舞台である。主人公は息子役・涌井拓郎(二宮和也)と父親役・涌井勇吉(寺尾聰)で、息子にとってのヒロインが梓(長澤めぐみ)、父親にとってのヒロインすなわち母親がめぐみ(大竹しのぶ)という位置づけである。

涌井勇吉(59・寺尾聰)は商社のエリートビジネスマンだったが、3年前、57歳の時に突然会社を退く。原因は愛妻の死。妻・めぐみ(当時47・大竹しのぶ)が息子・拓郎(当時18・二宮和也)の運転する車の事故でこの世を去ってしまったのだ。めぐみ47歳、拓郎18歳の時の出来事だった。勇吉は、めぐみの故郷である富良野に移住してコーヒーショップ「森の時計」を開いた。一方、拓郎は、富良野から50キロ離れた美瑛という町にある窯場「皆空窯」で、陶芸家の見習いとして修行を始めていた。事故以来、拓郎とは一度も会っていない勇吉は、もちろんそのことを知らなかった。

なぜこんなことになっているか少し補足すると、息子の事故で母親が死んだことで(かつ色々あって)父親を決定的に怒らせてしまい、父親と息子が絶縁状態にあるのである。だから父親は息子の近況を全く知らない。一方、息子は、事故を反省し、父親に会いたいし関係修復をしたいと思う一方、自分が決定的に怒らせてしまったことを知っているため、50キロという微妙に離れた場所で、遠くから父親を見ながら暮らしているのである。いじらしいというか、やや親離れできていない感じも覚えるが、まあ自分が原因で母親を失ったとなれば、こうなるのも仕方ないかもしれないという気はする。

改めて観て思ったのだが、とにかく温かい。幹のストーリーがそもそも温かさに満ち溢れているし、各話のストーリーや「森の時計」の常連客が交わすたわいの無い話もじんわり温かくて、観ていてとても優しい。ちょっとした小ネタも意外にツボにハマる。例えば第2話では、若いカップルがただならぬ様子で「森の時計」に駆け込んでくる。男は走り去り、残って泣き始めた女に事情を聞くと「昨夜夫に襲われた、レイプされました」と言う。実は昨夜に新婚初夜を迎えた夫婦なのである。よほど酷いことをされたのかと思いきや「スカートをめくられて、足の指をペロペロ舐められました…警察に言いに行きます」と来た! 足の指ペロペロで警察か! まあ違う意味で変態的ではあるけれど、それで警察というのもね。

演技も良い。寺尾聰の演じる涌井勇吉は、ベテランだけあってさすがに巧い。逆に長澤まさみの演じる梓と二宮和也の演じる拓郎は、(普段はどうということもないのだが)時々どうにも拙いというか妙にぎこちないセリフが出てくる。計算か、それとも未熟さ故か、どちらにしても俺はその妙なぎこちなさを愛し、二宮も長澤まさみも大好きになってしまった。亡くなった妻の親友かつ涌井父子の恩人を演じる余貴美子の演技も巧い。

ただし、妻の幻と勇吉(寺尾聰)が対話するシーン、これはどうだろうか。傷の癒えない夫を象徴する演出だが、少々あざとすぎるような気がする。妻の幻という存在が夫を色々と慰めてくれるが、逆に慰め過ぎるように思う。夫の中の妻のイメージや記憶を超えて、妻が一人歩きして夫を都合良く慰める、不自然な会話が続く。あるいは、勇吉が自分の気持ちを吐露するためだけのギミックになっていないだろうか? 最終話のラストシーンでは登場しないので、倉本聰は全部わかった上で「あえて」配置しているのかもしれない。しかしそれでも、勇吉の独り言で良いような気もするし、妻との対話シーンは正直いらないと思う。

まあ何だかんだ書いたが、息子が父親の姿をこっそり木の影からのぞくシーンと、ラストシーンに向かっての息子の決意ある行動、そして皆の気持ちが繋がっていくプロセス。ここは本当に泣けた。ボロボロ泣けた。めちゃくちゃ良いドラマだと思う。