赤名修+真刈信二『勇午 インド編』

勇午 インド編(上) (講談社漫画文庫)  勇午 インド編(下) (講談社漫画文庫)
功率97.4%を誇るフリーの交渉人・別府勇午による社会派ストーリー漫画。Wikipediaを読んでいて気づいたのだが、ほぼ全てのシリーズにおいて、交渉の過程で勇午が拷問を受ける羽目になる……という、なかなかアレな漫画でもある。
インド編で複雑な問題と言えば……もちろんカースト制度である。当然、カースト制度が交渉に深く関わってくる。カースト制度による身分差別は、現代の価値観に照らせば確かに差別なのだが、簡単に否定できるほど話は単純ではない。インドの社会基盤や文化・思想にあまりにも深く関わっているからである。本作でも「カースト制度は差別ではない」と喝破する人物が表れる。
そもそもカースト制度は単なる身分制度にとどまらず、同じ仕事に就く(ギルドにも似た)職能集団であるという側面を持っている。また世襲制であることから地域の同族集団という側面を持っていると言って良いだろう。加えて、カースト制度においては前世での功徳が輪廻後のカーストに影響を及ぼすと考えられており、倫理装置としても機能する。しかし裏返せば、低カーストの人間は前世の行いが悪かったのだから高カーストの人間と明確に区別されて当然だという考えを生み出す。先ほどの「カースト制度は差別ではない」という考えは、ここに繋がってくる。
こういう複雑な社会基盤における交渉は、やはり複雑にならざるを得ない。面白いなあ。