野尻抱介『南極点のピアピア動画』

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

野尻抱介という人は、淡々とした(つまり硬質だけど読み辛くない)文体で初心者にもわかりやすくハードSFの面白さを伝えてくれる稀有な書き手なのだが、ニコニコ動画のマニアらしく、ぜんぜん仕事をせず、日々ニコ動で動画を見たりアップロードしたりしていると聞いたことがあった。『ふわふわの泉』『太陽の簒奪者』『沈黙のフライバイ』と面白い本をたくさん出しているので、たまには新作を出してほしいなあと思っていたところ、何とニコニコ動画をモチーフに新作を出してきた。なるほど、趣味と実益を兼ねて来ましたか。
ピアピア動画という明らかにニコニコ動画をもじった作品名に、明らかに初音ミク的な美少女イラストが描かれたイラストという、気の弱い人は本屋のレジに行けないのではと心配してしまう表紙だが、中身はまともなSFである。いや、まともどころか極めて秀逸である。ニコニコ動画やそのユーザーが活躍して月や宇宙への可能性を開拓するというストーリー展開は、ややニコニコ動画マニアによる判官びいきという気もするが、それを差し引いても凄く面白い。
ただし、主にネット関連の話題で活躍するジャーナリスト・津田大介が実名で登場したり、巻末の解説をニコニコ動画を運営するドワンゴの会長が書いたりするなど、やや身内で盛り上がっている印象を受ける。特にドワンゴの会長の解説は実にどうでも良かった。