- 作者: 伊賀泰代
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/11/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 24人 クリック: 392回
- この商品を含むブログ (60件) を見る
ただしちゃんと読み始めたらすぐわかるのだが、本書はマッキンゼーでの採用基準や優秀な人材の見分け方を書いた本ではない。したがって『採用基準』という書名は(ちきりんに敬意を表してネットコミュニティで多用される表現を用いれば)明らかに「釣り」であり、実際は日本とグローバルの人材やキャリア意識の差を解説した本と言えるだろう。
内容としては、まず本書では「リーダーシップ」をとにかく何にも増して身につけるべき人材要件だと捉えている。というか、ほとんどそのために本書が書かれたと言って良いくらいである。リーダーシップが必要なことには俺も同意するが、リーダーシップの重要性は他の本や論文でも多く語られており、取り立てて新味はない。またトップにもスタッフにもリーダーシップが欠如しているのに成果を出してきた日本的組織・日本的人材の価値創出の源泉に一切触れられていない点には、やや感情的な不満を感じてしまう。良くも悪くも「外資系かぶれ感」満載で、グローバルはこんなに凄いのに日本は駄目だねという論調で凝り固まっているという感想を持った。
ただしそうした感情は一旦横に置いておき、本書を人材論やマネジメント論ではなく自己啓発書的に捉えると、本書はなかなか良いと思う。例えば……(自分に響いた主張を俺の言葉でやや乱暴にまとめたため、本の内容を網羅している訳ではない)
- カリスマ型リーダーに期待する前に、どんな役職であってもまず一人ひとりがリーダーシップを発揮するべきだ。リーダーシップは組織長や管理者だけが発揮すべき性質のものではないからである。
- リーダーはマネージャー(管理者)ともコーディネーター(調整役)とも異なるはずだが、日本では混同されている。リーダーは「目標を掲げる」「先頭を走る」「決める」「伝える」という4つのタスクを実践する者である。
- リーダーシップは才能ではなく、日々の発揮経験や鍛錬で身に付けられるスキルだと捉えるべきである。リーダーシップを発揮するためには「バリューを出す」「ポジションをとる」「自分の仕事のリーダーは自分」「ホワイトボードの前に立つ」の4つの基本動作を日々意識し、「できるようになる前にやる」ことが重要だ。
これらは完全に初耳というトピックではないけれど、文章も巧く、定期的に振り返るべきだなと思わせられた。
リーダーシップをスキルとして捉えるという着想にも概ね同意したいが、この着想に敢えて付言すると、前段で「論理的思考力」が才能やスキルではなく「スキル」「意欲」「体力」の総体で捉えるべきだと言う著者の持論を紹介したが、リーダーシップにも同じことが言えるのではないだろうか。すなわちリーダーシップは才能でもスキルでもなく、「リーダーシップスキル」「リーダーシップ意欲」「リーダーシップ体力」の総体で捉えるべきものだと思う。
さて、「スキル」「意欲」「体力」の3つで日本の政治家のリーダーシップを分析する……のは、どう考えても暗い結論しか生まないのでやめておこう。仮に政治家が駄目でも、一人ひとりがリーダーシップを発揮することで日本や日本企業を良くする方が建設的である。