松尾睦『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』

「経験学習」入門

「経験学習」入門

以前『経験からの学習』という本を書いていたが、本書も経験学習をテーマにした本。
経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-
成長する人は、単なる地頭の良さや要領の良さではなく「経験から学ぶ力」が違う……というのは、本書を待たずとも直感的に誰もが感じていることであろう。著者は「はじめに」で、「経験から学ぶ力」を以下のようにまとめている。

適切な「思い」と「つながり」を大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる

つまり、挑戦的な目標に取り組み、自分の仕事のあり方を振り返りながら、仕事の中に意義ややりがいを見つけるとき、人は経験から多くのことを学ぶことができます。

なんだかフツーというか、ほとんど驚きのない結論である。まあ学術研究というのは得てして、人が無意識的に自明と感じていることの確からしさを証明するものでもあるわけで……。
しかし経験から学ぶ力の個別の要素に着目して本書を読み込むと、読み手によっては大きな示唆を得ることができると思う。事実、俺はそうだった。例えば挑戦的な目標に取り組むこと(ストレッチ)について、職場に挑戦する場がないと感じることがあるかもしれないが、成長を果たした優れたマネジャーへのインタビューを紐解くと、いきなり挑戦する場が与えられることは稀であることがわかる。まずは目の前の仕事に取り組んで周囲の信頼を獲得し、ストレッチ経験を呼び込むことが重要なのだが、このストレッチ経験を「呼び込む」という発想に、俺は強く勇気づけられた。
大して信頼を得ていない人材がいきなりストレッチ経験を「要求」しても、目の前に降って来る可能性は少ないし、また降ってきたとしても周囲の助けを適切に得ながらストレッチした目標にチャレンジすることは難しい。逆に、ストレッチした目標は「待っている」だけでも降って来るとは限らない。もちろん、よほど力のある人材でない限り、いきなり職場や市場にイノベーションを起こしてストレッチした仕事を創出することも難しいだろう。まずは目の前の仕事を期待以上の品質でこなしながら周囲の信頼を得て、また近くの仕事を積極的に手伝って顔を売り、自分にストレッチした仕事を与えてくれるようアピールする。そうすることでストレッチ経験を「呼び込む」ことができ、組織の中で成長できる。一見遠回りに見えても、これは確実に成長に繋がるのである。
(本書には書かれていないけれど)更に言うと、職場に自分の求めるストレッチ経験が本当に無いなら、目の前の仕事を頑張ったり周囲にストレッチ経験をアピールしても無駄になる可能性がある、ということも言えるかもしれない。そういう会社や仕事が存在するのも事実だと俺は思う。工夫の余地のない仕事というものが世の中にはある。
いずれにせよ、読み手によって感銘を受けるポイントが随所に書かれた本である。面白い。