森博嗣『恋恋蓮歩の演習』

恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)

恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)

元・旧家の令嬢にして離婚経験のある一児の母であり自称科学者でもある探偵役の瀬在丸紅子(とその友人である保呂草潤平・小鳥遊練無・香具山紫子)が遭遇・解決した事件を、探偵でもある保呂草潤平が回想として記述する「Vシリーズ」の第6弾。
森博嗣はデビュー当初の作品こそ「おお!」と思うトリックがあったけれど、Vシリーズではもう「ふーん」程度のトリックが大勢を占めている(第1作を除いて)。文体も当初は硬質で良いかと思ったが、ふと気づいたらポエムじみた文章がちょいちょい混じるようになり、これがまた目障りで仕方ない。ならどうして読んでいるのかと問われると、ひとつにはKindleでまとめて買ってしまったからであり、もうひとつには読みやすいからであり、さらに言うとS&Mシリーズ・Vシリーズの次が四季シリーズというらしいのだが、この「四季」は明らかにS&Mシリーズの魅力的な裏ヒロインである真賀田四季の名前から来ているのではないかと予想しているから、最低でもこの四季シリーズまでは読んでみたいと思い、読んでいる次第なのである。
S&Mシリーズと比べ、Vシリーズの登場人物にはどうもあまり惹かれないのだが、前作『魔剣天翔』に続いて保呂草にイリーガルな仕事を依頼というか強要する各務亜樹良(かがみあきら)は魅力的で良いね。喩えるなら、峰不二子のような「ややステロタイプだけど抗えない魅力」を持った人物だと言える。というかヒロインの瀬在丸紅子やそのライバルである祖父江七夏よりも、よっぽど魅力的である。ヒロインの瀬在丸紅子は作者曰く天才らしいが、その天才性があまり全く見えてこない(推理がお上手なのはわかったがそれは天才でも何でもないと思う)。しかもこの歪んだ性格や言動の背景にはS&Mシリーズのヒロインである西之園萌絵のように「トラウマ」があるのだと予想しているが、その種明かしに辿り着くまで読み続けられるか不安になるほど人間的魅力に乏しい。それなのに、いかにも「魅力的な女性」然として描写されているのがまた寒い。
祖父江七夏に至っては前作『魔剣天翔』あたりから凡庸ぶりが際立ってきており、もはや「賑やかし」以上の役割を果たせていない。喩えるなら、名探偵コナンの「園子」や「警部」である。
S&Mシリーズも中盤は「何だかなあ」と思っていたが、ラスト近くで西之園萌絵に対する俺の印象が劇的に改善されたので、Vシリーズの瀬在丸紅子もそうなってくれると良いのだけれど(祖父江七夏はもう諦めた)。