デイヴィッド・J・リンデン『快感回路 なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか』

快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか

快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか

池谷裕二が帯に寄せた「トピックは幅広い。やせ薬、マニア心理、痛みの快楽、オルガスム増強薬、神秘体験。思わず人に離したくなる話題が盛りだくさんで、読むほどに快感回路が刺激される」というコメントを読んで、面白そうだったので衝動買い。
構成としては、第1章が総論。第2章が薬物。第3章が飲食。第4章がセックス。第5章がギャンブル。第6章がこれまでに述べられなかった主に「悪徳」とされていない快楽。これは幅広く、ランナーズ・ハイに瞑想、神秘体験、果ては慈善の快楽にまで言及している。
著者はれっきとした研究者なので、某脳科学者のように雰囲気で「脳って実は……」と自己啓発じみたことを述べることはない。しかし、おカタいばかりの本かと問われると、実はそうでもない。例えば、第4章「性的な脳」の冒頭はこんな感じである。

 あなたのセックスを眺めているネコは、いったいどう思っているだろう。たとえあなたがこの文化の中で性的に伝統的とされる嗜好を持っているとしても、つまり、たとえばディック・チェイニーのゴムマスクをかぶり、乳首を洗濯バサミで挟み、BGMにワーグナーの『指輪』をかけるというようなことをしていなくても、あるいはブルートゥース対応の電気ショックプローブを肛門に挿入して、インターネット経由でハンセン株価指数の激しい変動に応じてショックを味わうような真似をしていなくても、(中略)ネコはあなたを異常な奴だと考えるはずだ。そしてネコは正しい。
 ネコがおぞましいと感じることの一つは、人間が受胎しない時期に交尾をするという事実だ。(後略)

あくまでも本題は第二パラグラフから始まるので、第一パラグラフの饒舌な例示はほとんど悪ノリと言って良い。しかし著者の狙いはよくわかる。一般書ということで敷居を低くする必要がある一方で、内容のハードルをあまり下げ過ぎるとつまらなくなるので、表現を工夫してハードルを下げているのだろう。俺としては、これくらい遊び心や悪ノリがあった方が、この種の本は楽しく読める。