- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2006/11/10
- メディア: DVD
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主人公は、親兄弟との繋がりを捨ててまで東京で事業を立ち上げ勝負を挑むが、結局その勝負に負けて全てを失い、故郷の帯広に戻ってくる。故郷には母と兄がいたからである。しかし当然ながら兄は冷たく、母にも頑として会わせようとしない。主人公は無一文なので、誰か(つまり兄か母)に金を無心しなければタバコすら吸えないわけで、結局は兄が働くばんえい競走の厩舎に寝泊まりする。そして兄に罵倒されながらも、そのままそこで働くようになるというアウトラインであろうか。
主人公は、はっきり言ってしまえば口だけの現代っ子で、様々なところで何度も迷惑をかけ、また何度も逃げ出している。しかし主人公は主人公なりに苦闘してきた歴史があったわけで、その全てが「負け犬」のレッテルに覆い隠されることで、彼の人間としての尊厳は深く損なわれてしまっている。主人公はもう一度立ち上がって勝負をするには程遠い心身の状態で帯広に逃げ帰り、世間から身を隠した。しかし主人公はそのように深く傷ついた中で、自分と同じくうだつの上がらない馬(ウンリュウ)を見つけ、その馬に深く惹かれるようになる。馬肉寸前のウンリュウの世話をするうち、こいつがもう一度輝けたなら、自分も……という想いを次第に抱くようになった主人公は、ウンリュウの復活に自分の姿を重ね合わせ、勝つ見込みに乏しいウンリュウの世話を必死に続けていくのである。ウンリュウがその後どうなったか、主人公がその後どうなったかは、(凄く語りたいんだけど)本作を見ていただくしかあるまい。ここで語るのは野暮というものであろう。
なお、この映画の魅力として、濃密な人間ドラマに加えて映像の美しさも挙げておきたい。北海道の自然や雪景色の美しさは言うまでもない。俺が特に心を奪われたのは、帯広の朝焼けの逆光を受けながら馬に調教をつけている情景や、暗闇で身震いをして汗を飛ばす馬の姿、薄暗い厩舎で黒々とした馬の輪郭がおぼろげに浮かび上がるシーンだ。とにかく光と影の使い方が美しいのである。何度観ても惚れ惚れする。
さらに「ばんえい馬」や「レース」の圧倒的な迫力にも触れておかねばなるまい。中央競馬のサラブレッドの体重は400kgから500kg程度なのだが、ばんえい競走を走るばんえい馬は800kgから1200kg前後と、サラブレッドのざっと2倍から3倍の体重である。そして、ばんえい馬が牽くそりは450kgで、そりに載せるおもりは最低480kg(牝馬は460kg)で、最高1000kgにもなる。つまり1tの馬が1tから1.5tのそりを牽くのである。当然ながら、ばんえい馬の筋肉の付き方はサラブレッドのそれとは全く違う。サラブレッドとばんえい馬はどちらも美しいが、力強さや迫力という点では、ばんえい馬は圧倒的である。