小島てるみ『ヘルマフロディテの体温』

ヘルマフロディテの体温

ヘルマフロディテの体温

ヘルマフロディテの体温 最後のプルチネッラ (Style‐F)
小島てるみ(おじまてるみ)のことは寡聞にして全く知らなかったが、2008年に『ヘルマフロディテの体温』と『最後のプルチネッラ』の2冊同時出版でデビューした作家である。どちらも既にAmazonで新刊は取り扱っておらずマーケットプレイスで手に入れるしかない状況であり、3冊目もまだ出版されていないが、ブログを見る限り作家としての活動は継続しているようだ。
本書は第1回ランダムハウス講談社新人賞優秀賞」と「第8回センス・オブ・ジェンダー賞大賞」を受賞したデビュー作である。Amazonからオススメされたのだが、Amazonのレビューの評価が高い上、帯に寄せた小池真理子の「翻訳書を思わせる文体。妖しい香り。優雅で秘密めいた、散文詩のような作品。」という推薦文も気になったので、半ば衝動的に購入した次第。といっても文体はいざ読んでみるとそれほど強烈な印象を感じることはなかった。表紙の絵柄&「翻訳書」とか「散文詩」といった触れ込みから、いわゆる耽美系や、平野啓一郎の『日蝕』のような文体を想像したのだけど、わりに読みやすい文体である。
さて内容に移ると、本書はナポリを舞台とした「性」と「からだ」の有り様を掘り下げた小説である。
海辺の田舎町からナポリの大学に進んだ青年シルビオは、ゼータという真性半陰陽(ヘルマフロディテ)の大学教授と出会う。ゼータはシルビオの母が「男」になる手助けをした人物であり、つまりはシルビオの家庭崩壊に関与した人物である。シルビオは母を憎み、母を「男」に変えたゼータを密かに憎み、ゼータの授業では攻撃的な質問を繰り返していた。一方、シルビオは昼間のそうした姿からは想像もつかない秘密を抱えていた。シルビオは13歳の頃に母親が「男」になったトラウマから女装趣味をやめられなくなっていたのである。ナポリには「フェミニエロ」という、トランスセクシャルや女装者など「女になった男」を総称する方言がある。シルビオは家庭を壊し父を傷つけた母と「フェミニエロ」という点では同類なのである。シルビオはそのことに傷つきながらも、女装趣味はエスカレートし、ついにはゼータにそのことを知られてしまう。ゼータは、シルビオの女装趣味を黙っている代わりに、いくつかの「課題」をこなすことをシルビオに投げかける……こんな感じのプロローグであろうか。
物語は、「シルビオの日常世界」と「シルビオ聞き書きした物語やレポートの世界」という二重構造で進んでいく。テクニカルな構成をサラッと読ませるあたり、力があるのだと思う。他の作品も読んでみたいなあ。