大瑛ユキオ『ケンガイ』1〜2巻

ケンガイ 1 (ビッグコミックス)

ケンガイ 1 (ビッグコミックス)

ケンガイ 1 (ビッグコミックス) ケンガイ 2 (ビッグコミックス)
帯には「日本橋ヨヲコ氏・浅野いにお氏らも注目する破格の新人、デビュー!!」と書かれていたので気になって購入。単独で単行本を出すのは初めてのようで、それをもって帯では「新人」と書いているようだが、3年ほど前に一色登希彦元町夏央と一緒に『九段坂下クロニクル』という漫画を出している。*1
就職戦線から脱落して(大学を既に卒業したかどうかは不明だけど多分フリーターなのかな)レンタルビデオ店のアルバイトに精を出しているごく一般的な青年の恋愛漫画……ということになるのだが、甘酸っぱさは微塵も感じられない。
主人公(伊賀)の相手となるヒロインは、他のアルバイトスタッフから「ケンガイ」と陰口を叩かれている映画マニア(白川・24歳)である。白川さんはけっこう可愛いルックスをしているけれど、マニアックな映画以外のことに興味はなく、他人とコミュニケーションを取ることや恋愛にも興味はない。化粧もしない。孤高と言えば格好良いが、なんだろね、そんな感じでもないんだよな。いわゆるオタクや腐女子とも違う。愛なんて幻想だとか言っている黒歴史をこじらせたという訳でもない。伊賀の友達が「白川さんは病名つけようと思えばたぶんつけられるんだよ。ただそんな人ザラにいるけどな。」と言っているが、言い得て妙だ。病気とか治療といった硬い言葉が合うかどうかはわからないけれど、セラピーやカウンセリングにより自分と向き合うことで、もう少し生きやすくなるんじゃないかという類の人である。
伊賀は白川さんにさかんにアタックをかましているが、伊賀が白川さんに恋をしているかと問われると、そういうわけでもない。ただ気になっていて、もう少しお近づきになってパーソナルなことを知り合いたいと思うけど、そのフラグすら立たない……そんな恋愛未満の恋愛漫画なのである。独特のアプローチながら現代的なコミュニケーションの様態の一端を突いていると思うので、続きも読んでみようと思う。

余談

主人公・伊賀の友達(静夫)は笑顔を浮かべながら飄々と毎日を生きている感じだが、なかなか鋭くて、示唆的なことを言う。例えば伊賀から白川さんの話(愚痴&悩み相談)を聞いているとき、パフェを食いながら「(白川さんは)なんかの恨みをお前に向かって晴らしてんだろーな」とサラッと言ったりしている。家庭環境を含め、これまで満たされなかったことでねじくれた、という感じが凄くする人物造形である。たぶん静夫が作者の「代弁者」なのだろう。

*1:『九段坂下クロニクル』は読んだのだが、大瑛ユキオの作品のことは残念ながら全く覚えていない