フレッド・クロフォード+ライアン・マシューズ『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』

競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略

競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略

星野リゾート社長の星野佳路が監修。
コモディティ化」と「資源の有用性」という問題を解決して競争優位を確立するためには、価格・サービス・アクセス・商品・経験価値という5つの要素のうち、そのうち1つで五段階評価の5点(市場支配)を、別の1つで4点(差別化)を、残りの3つで3点(業界水準)を達成することが重要であり、これより点が低いと顧客からの信頼を得られず、これより高いと過剰に投資し過ぎている……というアウトライン。
非常に説得的というか納得感のある主張である。全てを完璧にすることは難しいが、5つの要素全てにおいて4点以上を目指そうとする人や企業は後を絶たない。そしてその「過剰な努力」は結果的に価格やサービスに転化され、価格・サービスが業界水準の3点を維持できなくなるのである。あるいは2点以下の要素があるのに放置して、強みだの何だのといった耳に心地良い言葉を掲げて現実を直視しない人や企業も頻繁に目にする。
5・4・3・3・3は、経験則からしてもバランスが良いと思う。
なお本書は星野佳路が冒頭やあとがきで解説してくれており、これがけっこう役に立つ。例えば星野佳路が星野リゾートのようなサービス業において、この5つの要素に基づくファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略をどう捉えたか?

 本書に出会う以前、私が考えあぐねていた問題が他にもあった。それは、サービス業にとって商品とは何であるのか、というものだった。(略)
 長く考えた結果、私の解釈は以下の通りとなった。
 ホテル・リゾートのサービス業においては、商品=施設、経験価値=サービス内容と質、サービス=カスタマイゼーション、とすることにした。つまり、商品とはホテルや旅館の外観・内観の居心地の良さ、機能性、そしてデザインの斬新さなどハード面の内容であり、経験価値は「リラックスできた」「楽しかった」「美味しかった」とお客様に思っていただけるソフト面とし、サービスは、個別の顧客に合ったサービス内容のカスタマイゼーションとした。こう考えて改めて本書を読んでみるとスッキリ理解できる面が多い。

 本書を読んで最も衝撃を受けたのは、アクセスという概念が単独で競争力維持の要素になりうるという事実だ。それまでも多くの経営書で、商品、価格、サービス、経験価値などは、経営の要素としてそれらの重要性は訴えられていた。(略)しかし、アクセスを企業競争力維持において重要な要素としてあつかった理論をそれまで目にしたことはなかった。コトラーの講演ではアクセスを"Ease of Access"と定義していた。つまり、「買い易さ」という意味だ。買い易い環境が企業競争力を維持するという発想が私には新鮮であった。限られた資源の中で、脱コモディティの戦略をたてようとしていた時に、私はアクセスをレベルII、つまり差別化の要素にした。ホテル業界におけるアクセスとは「予約の容易さ」ということである。