山口真由『東大主席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』

私はいわゆる有名人のノウハウ自慢のような自己啓発書を読むことはほとんどない。しかし著者は大学3年次に司法試験、4年次に国家公務員I種に受かり、しかも東大は首席で卒業。つまり「お勉強」つまり「インプット」についてはとんでもない能力を持っている才女である。私にも仕事柄インプットしたいことは山のように(という形容では追いつかないほど大量に)あるため、せっかくだからノウハウを盗みたい、という心境で買ってみた次第。

本書の肝は、ウダウダ考えたりノートにまとめ直したり音読したりといったインプットを止め、「300ページ程度の文章中心の本を30分程度でサラサラと斜め読みする」ことを7回繰り返せ、というものだ。科目毎に多少のアレンジは必要だが、司法試験や国家公務員I種にとどまらず、英文法・現代文・世界史など基本的には勉強はこれだけで良い、という大胆な主張をしている。

本書を読んで思ったのは、大きく2点だ。

ひとつは、「計算が合わない」ということ。

そもそも著者は、この勉強法に特別な才能は要らないと言っているから、著者と同じノウハウで我々も東大に合格できると仮定してみる。30分×7回として、教科書1冊(つまり1科目)に必要な勉強時間は3.5時間。国立大学の大学受験に必要な科目は英・数・国・理2・社2だろうか。国語を現代文と古典に分けるとか、数学を数I〜IIIとかA〜Cに分けるとか、英語を長文読解と文法問題に分けるとかしても、まあ15科目がせいぜいだろう。で、15科目×3.5時間で、52.5時間、これだけで大学受験の勉強が概ね済んでしまうことになる。著者は大学受験の際は1日10時間勉強したというが、著者ならわずか6日で余裕を持って東大合格レベルにリーチできるということだ。

まあ、そうは言っても我々は凡人なので、復習のためにもう14回ぐらい余分に基本書をサラサラと読み返すとか、1科目につき数冊の教科書を読むとか、模擬試験や過去問をやってアウトプット対策をするとか、そういう時間を諸々加味して、52.5時間ではなく、その10倍もみっちり勉強したとする。それでも東大合格に必要な時間は525時間なのである。著者は大学受験の際は1日10時間勉強したというが、浪人すれば、予備校に通うぐらいしかやることはないから、著者と同じ時間だけ勉強時間を確保できるだろう。で、実際に浪人すると、53日、つまり2ヶ月弱の勉強で凡人から東大合格レベルにリーチできることになる。

本当か?

どう考えても計算が合わない。

仮にもノウハウ本であるなら、ノウハウは隠さず、そして(少なくとも表面上は)整合的に書いてほしいと、素朴に思った。

もうひとつは、とはいえ「"教科書の斜め読みを最初に繰り返す"というインプットの発想自体は面白い」ということ。

ひとつ目の指摘では、敢えて重箱の隅をつつく小さないちゃもんをたくさんつけた。けれど少なくともn=1では成功しているアプローチであるのは事実だし、3.5時間(30分×7回)で本当に中身をマスターするというのは大げさだとしても、わざわざ「ノートにまとめ直す」といった古典的な勉強法が効率的かと問われると、確かに疑問符がつく。私も溜まった専門書を片っ端から流し読みしてみよう。