- 作者: 長谷 敏司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
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ありふれたプロローグだが、その後に語られる物語は決してありきたりではない。生と死について、孤独について、恐怖について、生前に残された業績について、家族について……エッセンシャルな物語が読者に突き付けられる。そして、あたたかい赦しや癒し、救いはない。いや、正確には、わずかな人々は自分なりのやり方でサマンサを赦し、癒し、救おうとするのだが、彼女は決然とそれを拒絶するのである。それを愚かとも言うし、誇り高いと見ることもできる。両義的で、タフな物語だ。しかし胸を打つ。
余談
私は、サマンサの旧友にして共同創業者であるデニスというキャラクターが好きだ。サマンサほどの研究者としての才能はなく、数年前に研究者を引退してプライベートを充実させたいと言いながら管理・経営に回っているが、実際には仕事に汲々とし、株価を下げ、余裕のない顔つきをしている。そして真っ赤な顔で死を前にしたサマンサを罵倒する。それでいて本当はサマンサのことが心配でたまらないのだ。サマンサに比べたら、彼の器は「ほどほど」なのだろう。しかし彼は「善い人」だ。