山口周『天職は寝て待て』

天職は寝て待て 新しい転職・就活・キャリア論 (光文社新書)

天職は寝て待て 新しい転職・就活・キャリア論 (光文社新書)

最近まとめて読むことにした山口周の著書。本書はいわゆるキャリア論である。『天職は寝て待て』という書名は、要はクランボルツの「計画された偶然(プランド・ハプスタンス)」を意識したものであろう。本書の中でもプランド・ハプスタンス理論には比較的多くのページが費やされている。プランド・ハプスタンス理論は、金井壽宏や高橋俊介といった研究者が既に一般の読者向けにわかりやすく説明した本を出しているが、本書もまあわかりやすい。
個人的に本書の中で最も面白かったのが、ロジカルシンキングは「差別化にならない」という著者の主張である。
「プロセッシングスキル」などの耳慣れない言葉が出ていたので、一部を私なりの言葉で補いながら説明するが、そもそもロジカルシンキングとは、Wikipediaの一行目では「一貫していて筋が通っている考え方、あるいは説明の仕方」と定義されている。ビジネス領域では、この筋道の通った考え方であることに加えて、「複雑な現象をシンプルに解きほぐして整理・説明できること」という意味も含んでいるだろう。もちろんロジカルシンキング自体はビジネスパーソンにとって重要なスキルである。しかしロジカルシンキングとは、私なりの言葉で書くと、突き詰めると1+1=2なのだ。
第一に、ある程度以上のロジカルシンキングのスキルを持つ人はほぼ全員が同じ答えに辿り着く。複雑な現象(左辺)が1+1であることを整理し、左辺が1+1であることがわかれば右辺は2であるとの結論を導出する。つまりロジカルシンキングは「正解」を探す能力であり、そこには本質的に差別化の要素がない。第二に、1+1=2であると正解を述べただけでは相手の心は動かない。相手を動かすことができないのだから、そこには本質的に差別化の要素がない……著者の主張を私なりの言葉も交えて書くと、こういうことだと思う。
これまでの自身の社会人経験と照らし合わせてみても、ロジカルシンキングには差別化の要素がないという著者の主張はしっくり来る。そして改めて考えると、なかなかのインサイトを有した刺激的な主張だ。