藤田湘子『新版 20週俳句入門』

角川学芸ブックス  新版 20週俳句入門

角川学芸ブックス 新版 20週俳句入門

これまで読んで来た俳句の入門書の中で、最もわかりやすい。
わかりやすいというのは、俳句の技術がしっかり解析されているということ。

  蒲公英(たんぽぽ)の黄色い花や女の子
  向日葵(ひまわり)がまぶしく照りて坂の上
  物干せばコスモスの花ゆれてゐる
  学校へ行く子カラカラ落葉(おちば)舞ふ
 分かりやすいように四季の植物を詠った作を並べたが、どれも一度か二度しか作句していない人のもので、共通の欠点をもっている。どこが欠点かと言うと、季語(傍線の部分)に対して、言わなくてもいいことをわざわざ言って、作品を薄っぺらにしている点です。
  蒲公英=黄色い花
  向日葵=まぶしく照り
  コスモス=ゆれてゐる
  落葉舞ふ=カラカラ
 こう書いてみるとよく分かるはず。蒲公英はことわるまでもなくおよそ黄色い花だし、向日葵と言ったら夏の象徴、まぶしく照るのは当たり前。コスモスもあんな繊細な花だから、風がなくてもいつだってゆれている。そして、落葉が舞うときは、たいていカラカラという音を立てるだろう。つまり、どの句も「蒲公英」「向日葵」「コスモス」「落葉舞ふ」、という季語のもっている連想の部分を、わざわざ詠っている。こういうのを「季語を説明している」というのだが、こうなるとかえって季語の連想力はしぼんでしまって、本来のゆたかさを失ってしまうのです。だから、季語の説明はいっさいやめて、季語はそのまま、なんの手も加えず一句の中に置くようにする。

「季語の説明をしない」という基本技術について、何故それをしては駄目なのかという理屈と作例がセットになって、読者はしっかりと理解することができる。
他についても、ほとんど全て、曖昧さや精神論、とりあえず作ってみようというのがなく、初心者が何をすれば良いのか、何に気をつければ良いのかが、非常にわかりやすい。
私はまだ俳句についてはずぶの素人だが、これが名著ということはわかる。
何度も読み返し、自家薬籠中の物としたい。