エリン・メイヤー『異文化理解力』

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

グローバル化が進む現在、外国人と一緒に働く機会は増えているが、その際に重要なものは何だろうか。巷で言われているように英語力は重要であろう。あるいは確固たる専門性(エキスパティーズ)もそうだ。しかし他にも重要なものがあり、それが本書のタイトルでもある「異文化理解力」である。人間一人ひとりに個性があるように、ビジネスパーソン一人ひとりに個性がある。しかし他文化の人々と働くときは、個性の違いだけでなく文化の違いも理解する必要がある。振る舞いや信条の文化的なパターン(文化的コンテクスト)を知ることで、異なる文化のビジネスパーソンとより上手く働くことができるようになる。本書は、上記の基本的スタンスを踏まえ、特にビジネスシーンにおいて必要となる文化の見取り図(カルチャーマップ)を定義し、カルチャーマップを構成する八つの指標について解説した本である。

八つの指標と両極端の分布は、以下のようになる。

  1. コミュニケーション…ローコンテクストvsハイコンテクスト
  2. 評価…直接的なネガティブ・フィードバックvs間接的なネガティブ・フィードバック
  3. 説得…原理優先vs応用優先 ※演繹的思考vs機能的思考と読み替えて良い
  4. リード…平等主義vs階層主義
  5. 決断…合意志向vsトップダウン式
  6. 信頼…タスクベースvs関係ベース
  7. 見解の相違…対立型vs対立回避型
  8. スケジューリング…直線的な時間vs柔軟な時間

図がないので少々わかりにくいが、例えば20〜30の国で比較した日本文化の相対分布は以下のようになる。

  1. コミュニケーション…極めて「ハイコンテクスト」
  2. 評価…極めて「間接的なネガティブ・フィードバック」
  3. 説得…極めて「応用優先(帰納的思考)」
  4. リード…極めて「階層主義」
  5. 決断…極めて「合意志向」
  6. 信頼…やや「関係ベース」
  7. 見解の相違…極めて「対立回避型」
  8. スケジューリング…かなり「直線的な時間」

これを見ると、階層主義と合意思考が、日本的な「意思決定の遅さ」を生み出し、さらに対立回避型と相まって「稟議」という世界的にも独特な意思決定の仕組みを生み出していることも、すっと腑に落ちる。また、ここでの「評価」とは、要はネガティブ・フィードバックが「贈り物」と「侮辱」のどちらと受け取られがちな文化であるかということなのだが、この分布にも納得感がある。日本人の多くは直接的なネガティブ・フィードバックのスキルに乏しく、また受け手も直接的なネガティブ・フィードバックを受けた経験に乏しいため、建設的なネガティブ・フィードバックがなかなか成立しない。良かれと思って友人や同僚にアドバイスを送ったところ関係がぎくしゃくした経験や、企画資料や分析資料を上司に批判されてレビューされた際に人格批判を受けたような不愉快な気持ちになった経験を持つ方は多いだろう。

さらに、上記の8つの分布それぞれも本書では詳しく解説されており、時々ハッとするような指摘もある。例えば、「コミュニケーション」においては、以下のような指摘がある。

 ひとつ興味深い傾向がある。ハイコンテクストの文化圏では、学があり教養があればあるほど、話す際も聞く際も裏に秘められたメッセージを読み取る能力が高くなる。そして反対に、ローコンテクストの文化圏では、学があり教養のあるビジネスパーソンであればあるほど、明快で曖昧さのないコミュニケーションを取るのである。その結果、フランスや日本企業の会長は現場で働く社員よりもはるかにハイコンテクストである可能性が高くなり、アメリカやオーストラリアの企業の会長は新入社員よりもはるかにローコンテクストである可能性が高くなる。この点において、教育はその国の文化が持つ傾向を極端にまで体現した個人を生み出そうとするものだと言える。

異文化理解力は、英語力や専門性に比べると軽視されがちであるが、なかなか重要なスキルだと思う。