
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/11/21
- メディア: Kindle版
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本書は、村上春樹の読書観や小説観と大いに関わっている。村上春樹は元々、海外の小説は英語のままゴリゴリ読みまくっていたくせに、日本の小説を体系的に読むことをほとんどしてこなかった。そしてそのまま小説家になっていくわけだが、あるところで、まあそろそろ意地を張って日本の小説を意識的に回避するのはやめて、面白いと思うものは積極的・体系的に読んでみても良いのではないかというふうに頭のスイッチが切り替わる。
村上春樹が日本の小説の中で最も心惹かれたのが、第二次世界大戦後に文壇に登場した、いわゆる「第三の新人」と呼ばれている一連の作家たちである。安岡章太郎・小島信夫・吉行淳之介・庄野潤三・遠藤周作などが該当する。また、第三の新人には属さないけれどもその前後に登場した長谷川四郎・丸谷才一・吉田健一といった作家にも興味を抱く。そしてその頃、プリンストン大学に招かれて、週に1コマだけ大学院の授業を持たなくてはならなくなった村上春樹は、第三の新人および周辺の作家の間に何かしらの共通性があるのではないかという仮設を、大学院の授業におけるディカッションというかたちで、深め、また検証しようとする……そういう本である。
だから語り口がやや口語チックであるし、生徒役の発言も出て来る。
なお取り上げる作品は、有名な作品を半分、無名な作品を半分にしたそうだが、実はわたしは、第三の新人と呼ばれる作家たちの小説をほとんど読んだことがない。その意味では小説論が正しいかどうかはよくわからないまま、村上春樹の語り口を楽しんだ。