佐藤優『自壊する帝国』

自壊する帝国(新潮文庫)

自壊する帝国(新潮文庫)

大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞を受賞した作品らしい。『国家の罠』と同じく、佐藤優の初期の傑作に位置づけられるだろう。

佐藤優は自叙伝のようなものをいくつも書いているが、これは外務省の外交官としてロシアで活躍し、そして逮捕されるまでを描いた本である。佐藤優はノンキャリアということになるのだが、大使クラスでも持てないような人脈を作り上げていた。それが佐藤優の人の懐に入り込む力によるものであることは言うまでもない。人間的魅力、機微、教養、神学素養……これらは端的にセンスでもあるし、能力でもあるが、他の人では代替不可能な価値である。

一方、佐藤優は人生の節目で多くの貴重な出会いをしており、本作では「サーシャ」と呼ばれる魅力的な、そして実にロシア的な人物との出会いが語られる。サーシャがいればこそ、ロシア語運用能力が飛躍的に伸びて深い議論ができるようになり、的確な分析ができるようになり、多くのロシア人との人脈を構築できたと言って良い。人生において、本当に価値のある人脈は少ない。その人脈はとても大切にすべきだし、かけがえのないものであれば仮に一旦途絶えても再度復活する。

(ややネタバレというか、本書を読んでいない方には何のことかわからないだろうが、ネットで調べたところ、2012年にサーシャとの交流が復活したことが佐藤優のウェブに載っていた。)

……さて、ついに逮捕直前まで来た。次はいよいよ逮捕されてからと逮捕の経緯を徹底的に掘り下げた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』を読んでみよう。