村上龍+はまのゆか『文庫改訂版 あの金で何が買えたか』

文庫改訂版 あの金で何が買えたか―史上最大のむだづかい’91~’01 (角川文庫)

文庫改訂版 あの金で何が買えたか―史上最大のむだづかい’91~’01 (角川文庫)

本書のハードカバーが発売された1999年、そして文庫改訂版である本書が発売されたのは2001年。当時、不良債権という言葉がテレビや新聞を賑わさない日はなかった。

わたしは今40歳だが、今から20年ほど前、すなわちわたしが20歳前後だった頃の日本は、バブル崩壊とデフレによりとんでもない額の不良債権を抱えていたのだ。今の20歳は、そんな時代があったことすら知らないか、ほとんどおとぎ話のようにしか思えないかもしれない。まさに「隔世の感」である。

そんな世代に、本書は、今こそ読んでもらいたい。

バブル崩壊後、日本経済は長らく低迷し、「失われた10年」だの「失われた20年」だのと言われてきた。そしてそれは残念ながらある程度事実である。バブル崩壊とデフレにより全国の銀行が抱えた不良債権総額は、1992-2006年度の15年間で110兆円にも達している(処分額累計98兆円、不良債権残高12兆円)。信用金庫や一般企業が被った損失を合わせると、累計額は200兆円とも言われているのだ。億ではない、兆である。

とんでもない額だ。

その「とんでもなさ」を想像してもらうための本が、本書なのである。

100兆円があれば、何が出来たのか?

200兆円があれば、何が出来たのか?

例えば、三井住友銀行の前身である住友銀行への公的資金注入額は5010億円である。この5010億円があれば、土星探査機を作り(4080億円)、バイアグラ開発費用を賄い(400億円)、絶滅の危機に瀕しているツシマヤマネコを保護し(3億3000万円)、アマゾンの森調査・復元プロジェクト(252億円)を行うことができた。

あるいは、三菱UFJ信託銀行の前身である三菱信託銀行への公的資金注入額は3000億円である。この3000億円があれば、安全な飲み水を確保できない11億人に対して440万個の浅井戸用手押しポンプ(2200億円)を提供して水くみの重労働から開放することができ、モアイ像の修復費用を負担し(1億8000万円)、1998年の長江の大洪水で被った中国の遺跡修復費用(30億円)を負担することができた。

他にも、こんなことが可能だ。

  1. 途上国の子供すべてに基礎教育を施すのに必要なお金は8400億円。これを10年間、丸ごと日本が立て替え続けても、8兆4000億円。
  2. アメリカトップ企業50社のCEOの報酬は年間500億円。10年間彼らを雇っても5000億円。
  3. 途上国1万箇所に図書館を作るのに100億円。10万箇所作っても1000億円。

まあ20年前と今では物価も違うし、サミー・ソーサやデニス・ロッドマンやタイタニック号といった時代を感じる固有名詞の名前も出てくるわけで、単純比較はできない(今ならメッシ、クリロナ、イニエスタ、東京オリンピックあたりかな)。しかしいずれにせよ、具体的なお金の使い道をイメージすることが重要なのだと思う。

2001年に書いたハードカバーの感想と合わせて読んでください。

incubator.hatenablog.com

余談

不動産王としてドナルド・トランプの名前が出てきた。時代を感じるねえ。