柳良平『日本型脱予算経営』

日本型脱予算経営

日本型脱予算経営

年次の予算を立案・運営していくのは極めて時間のかかる作業である。しかも年次予算制度が報酬と密接にリンクしているため、予算制度を採用しているほとんど全ての企業には「予算ゲーム」と呼ばれる不適切な行動が多かれ少なかれ蔓延している。そうした問題に対しては、脱予算経営と呼ばれる手法を採用することで対応可能だ……というのが、本書の主張である。

少し補足しておくと、予算ゲームというのは、例えばこういうことだ。そもそも予算というのは、目標金額を明確にし、そこに向けて皆で足並みを揃えて頑張るという「良い行動」を引き出すための制度であったはずだし、あるべきなのだが、予算制度の企業内での影響が強すぎて「悪い行動」が引き出されてしまう、というのが予算ゲームの典型的な症例だと考えてほしい。

  • 本当は今期もう少し売上を積み増すことができるんだけど、自分はもう予算を達成してしまったから、残りの案件は極力来期に契約を結べるよう、作業を後回しにしよう。
  • 期末まで残り2ヶ月だが、予算の達成はもはや絶望的だ。どうせ達成できないのだから、今期頑張るのは止めて来期の種まきに注力しよう。また、出来なかった理由を整理することに時間をかけよう。
  • 今期、本当は自部門は10億円の利益を出せそうなのだが、そんなことを正直に申告するバカはいない。予算策定時は、売上は極力小さく、コストは極力大きく申告しよう。(予算編成部門もそのことを認識していて、初回の計画はほとんど「ご挨拶」程度の意味しか持たない作業になっている)

上記のような予算ゲームや、年度の予算を立てるのに半年前後もかけているような状況を脱却するために、脱予算経営という手法がある。脱予算経営を標榜する企業では、年次の固定的な企業予算を廃止して、例えば以下のような形で業績を評価する。

  • 自社の店舗間・拠点間・部門間ごとの相対評価
  • 他社のKPI(ROE等)との相対評価]
  • ローリング式の業績予測(ローリング・フォーキャスト)

ローリング・フォーキャストについては少し補足が必要だろう。わたしの理解では、ローリング・フォーキャストには2つの意味合いがある。ひとつは、1年間同じ業績予測を使うのではなく、四半期毎や月毎に、細かく予測を見直すという点。もうひとつは、「年度末」に拘泥せず、常に一定期間後の業績予測をし続ける点。例えば、3月決算の会社で、6四半期後の業績を予測するという場合、2018年度の1Q時点では2019年度3Q末時点の業績を予測し、2018年度の2Q時点では2019年度末の業績を予測し、2018年度3Q末時点では、2020年度の1Q末の業績を予測する……という流れになる。

上記3つに共通するのは、「目標が固定化されていない」という点だ。これにより、予算を達成したからもう努力しなくて良い/予算を達成できそうにないから頑張るのは止めよう、といった「予算ゲーム」の幾つかを防ぐことが出来る。また予算編成にかける膨大な時間も割愛することができる。