今野敏『宰領 隠蔽捜査5』

宰領―隠蔽捜査5―(新潮文庫)

宰領―隠蔽捜査5―(新潮文庫)

個人的に今ハマっている隠蔽捜査シリーズの第5弾。

第5弾のモチーフは「議員の誘拐」であろうか。羽田空港から突如として足取りの消えた議員を内密に探してくれという非公式な依頼が、議員秘書から来る。そもそも議員秘書はふっと消えてしばらく遊んでひょっこり帰ってくるようなタイプなので、あまり大事にせず、非公式に探してくれという依頼である。誘拐はそもそも、安易に情報公開すると犯人を刺激する恐れがあるので、情報公開には慎重である。しかし非公開の捜査と、非公式の捜査は性質が全然異なる。その難しい舵取りをしながら、原理原則に則って大暴れ……うーん、面白い。個人的には、全くマンネリ化していない。

補足

続きモノなので以前に書いた本シリーズの紹介を、初見の方のために再掲しておく。

本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。