米澤穂信『ボトルネック』

ボトルネック(新潮文庫)

ボトルネック(新潮文庫)

主人公(リョウ)は男子高校生。2年前に死んだ恋人を弔おうと彼女の死に場所に向かったところ、東尋坊の崖から転落し、その拍子(?)にパラレルワールドへと移動してしまう。そのパラレルワールドでは、自分は生まれておらず、その代わり、自分の一年前に妊娠したが生まれなかった「姉(サキ)」が生まれていた。主人公は、自分の身に起きたことや、元の世界に戻る方法を探るため、姉と会話をしたり、パラレルワールドを見て回ったりする……。

一言で書くと、ミステリ×SF、なのかな。

ただ、初期の米澤穂信が高校生を主人公としたライトタッチの青春ミステリを多く書いているからと言って、同じ感覚で読むと、読み手はとんでもないダメージを食らうかもしれない。米澤穂信の青春ミステリは、わたしの中では「ライト」な感覚である。ここで言うライトとは、文体のそれを意味しない。決してネアカとは呼べないまでも、思春期ならではのすれ違いや頑なさがチリっと来たり、ほろ苦かったり、まあその程度の思春期特有のライトな苦しみを指す。ナイーブな人はいざ知らず、大雑把な人は、当時はこんなにも辛かったけど、10年後や20年後、ごくわずかな心の痛みとともに「過去の出来事」として思い出す程度の心の葛藤を描くのが巧い、そんな印象だった。

本書は違う。とにかく、終始「不穏」である。少なくともAmazonの作品に紹介に書かれていた「青春ミステリの金字塔」という言葉には凄く違和感がある。

主人公は辛気臭いし、元恋人も辛気臭いし、元恋人の従姉妹は辛気臭くないが「不穏」で、幻の姉(サキ)は唯一前向きで機転の効くネアカなタイプなのだが、何故かそれ自体が「不穏」に感じるのである。その不穏さの正体は読み進めればわかってくるのだが、個人的に入り込んで読んでいたので、なかなかウッと来る展開だった。心理的ダメージがデカい。ただ、そこまで読み手の感情を揺さぶれるのは凄い。

一読の価値あり。