オースン・スコット・カード『死者の代弁者〔新訳版〕』上巻

『エンダーのゲーム』の続編。

『エンダーのゲーム』を読んだことが前提となった世界観なので、ネタバレを防ぐためにあまり細かく書きたくないのだが、少しだけ書く。

以下、前作のネタバレを含む。

前作のラストで、アンドルー(エンダー)・ウィッギンおよび人類は『エンダーのゲーム』でバガーという知的異星種族を絶滅させる。直接的には人類の危機を排除したのだが、そもそもバガーは人類よりも遥かに高い知性を持った存在であり、既に人類を侵略する意志はなかった。なかったが、絶滅させてしまった。実のところエンダー自身もバガーを絶滅させる意志はなかったのだが(ここは詳細を伏せておく)、結果的にバガーの絶滅に加担したエンダーは、知的異星種族を絶滅させた大罪人の汚名を進んで背負うと共に、「死者の代弁者」というペンネームで『窩巣(ハイヴ)女王』という書物を書き、バガーという失われた種族を代弁する役割を果たす。この書物は人類に大変なインパクトをもたらし、これをバイブルとした宗教のようなものにまで発展し、「死者の代弁者」は宇宙全体で尊敬されるようになる。

それから3000年。人類は銀河各地へと植民地を広げ、ピギー族と呼ばれる第二の知的異星種族と遭遇する。ピギー族は人類ほどの科学力は持っていないものの、知性や言語を持ち、互いにコミュニケーションが取れる存在である。人類はバガーのときと同じ失敗をせぬよう、慎重にピギー族と接している。一方、エンダーは、バガーに対する罪を償うため、様々な星を訪れて「死者の代弁者」として活動するようになる。これは『窩巣(ハイヴ)女王』の著者である死者の代弁者とは別人という設定で、単に役割である。死んでしまった人間が抱えていた真実を、死者の代わりに掘り起こして代弁するという役割で、先ほど述べた宗教的な意味合いを持つ。そして未来の人類における権利である。申請が通れば、誰も代弁者の活動を妨げることはできない。なお相対性理論的なアレで、惑星間を光速に近いスピードで移動している間は時間の流れが遅くなるので、エンダーは3000年経ってもまだ40歳手前で、まだ生きている。しかし3000年前の自分を知っている人間はもう(一緒に旅をしてきた)姉しかおらず、またエンダーが「あのエンダーであること」を知る人ももはや姉しかいない。

このような状況下で、ピギー族を観察・調査してきた人物が、ピギー族に暴力的に殺されるという事件が起きる。ピギー族と人類は共に知性を持つが、そもそもバックグラウンドが全く異なる存在であり、なぜ殺される羽目になったのか、今の人類は全く理解できておらず、遺族は死の真相を明らかにして、なぜ彼が死ぬ羽目になったのかを代弁してほしいと、死者の代弁者のひとりであるエンダーに依頼する――長くなったが、こんなプロローグである。

前作は宇宙空間を舞台としたバトル描写や、その前段としてのバトル・スクールでの生活や訓練の描写が中心であった。「動」である。

一方、本作は、そういったアクションは鳴りを潜め、「静」の物語が展開される。しかし胸を打つ。

『エンダーのゲーム』も傑作だったが、これはさらに超えてきた。大傑作。