米澤穂信『黒牢城』

戦国時代の武将・大名である荒木村重を主人公とした歴史ミステリ、ということになるだろうか。荒木村重は織田信長に反旗を翻し、1年余りの間対抗していた史実がある。またその頃、翻意を促すよう説得しに来た黒田官兵衛を土牢に監禁していたのも史実だ。その頃の話が描かれている。

一応ミステリであることからあまりネタバレめいたことは書けないが、荒木村重は籠城中に幾度も困りごとに遭遇する。それを放置すると、きっと自分は戦に負けてしまう。したがって荒木村重は監禁していた黒田官兵衛を頼り、半ば無理やり知恵を出させる。黒田官兵衛は表立って荒木村重を助けることはしないものの、荒木村重が負けたり失墜したりすると自分が生き延びることもできないので、渋々ヒントめいたことを提供するという構図である。

面白いのは、荒木村重は「小さな窮地」を脱するたびに「より大きな窮地」に陥ってしまうという構図である。史実でも荒木村重は織田信長に重用されており、反旗を翻した直後は彼の行動に驚き、「村重、戻ってこい!」と言った……かどうかはさておき、信長も許そうとしていたそうだ。しかし1ヶ月やそこらで降伏して「すみません気の迷いでした」と許しを請うていたならともかく、1年以上も徹底抗戦を続けたとなると、信長もそう簡単に許すことはできなくなってしまう。

つまり本作の特徴である、「黒田官兵衛のお知恵」を拝借して小さな窮地を乗り切ることが、実は大局では荒木村重の立場をより危うくしているのである。これはミステリではなく、歴史としての面白さになるかもしれないが、上手く作品の中に組み込まれている。